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連載・特集

『生きて』 バレリーナ 森下洋子さん(1948年~) <13> 稽古が全て

諦めず体に覚えさせる

  舞踊歴65年を迎えた今も、日々の稽古を怠らない
 松山バレエ団では朝9時半から朝礼をし、みんなで一つの作品を創る思いを共有します。疲れた顔をした人がいれば「頑張りましょう」って声を掛ける。全員で前を向いて、進むことが大事ですから。私の稽古時間は毎日5、6時間ぐらいですね。完全にオフにする日もありますが、ストレッチなどは欠かしません。

 稽古ではバレエ団のメンバーに見てもらう。私に注意する人はなかなかいませんから「今のどうだった」と、こちらから聞き出す。指摘を受けたら、もう一回。何度も何度も繰り返します。

 練習は1日休むと自分に分かる。2日休むと仲間に分かる。3日休むとお客さまに分かる。バレエは頭で踊りを覚えていても駄目。体自体に覚えさせないと。でも、体や筋肉はすぐに忘れてしまう。だからこそ繰り返し繰り返し、体に染み込ませることが大事なんです。1年間に300足ぐらいのトーシューズを使っています。

  全力で舞台に稽古に取り組むには、心の持ち方が大切と言う
 昨年12月、年内最後の公演だった「くるみ割り人形」全幕を2日続けて踊りました。最初から最後まで出番が続きました。1日目を終えた時は、体が充実して次の日の準備をしているんです。2日目を終えた翌日の朝は、「公演が終わった」というのを体が知っているんでしょうね。体がほっとして、全身がリラックスするんです。命を懸け、舞台で全てを出すために稽古をしています。心の持ち方が体を変えていくのです。

 子どもの頃から、練習の回数を重ねなきゃ、うまくできないっていうのが染み付いています。1カ月、2カ月と頑張って稽古をしたけれど、できなかったと言って、諦める人がいます。バレエは時間がかかるもの。諦める人はもっと早く、うまく踊れるはずと思っているのではないでしょうか。

 私は10年、20年という視点で考えて稽古を続けています。だから絶対に、諦めることはしません。それだけ続けていけば、必ずできるようになると分かっていますし、信じていますから。

(2016年2月4日朝刊掲載)

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