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連載・特集

『生きて』 バレリーナ 森下洋子さん(1948年~) <15> 65周年

現役貫き感動を届ける

  1月31日の新「白鳥の湖」全幕の公演で、65周年の一年が始まった
 ことしも多くの舞台に立たせていただきます。終演後に楽屋に戻るとすぐ、次の公演のことを考えます。65年たっても「次」って、当たり前のように思える私は本当に幸せ。

 松山バレエ団は平和への祈りや願いを届けるため、作品の演出や振り付けを変え続けています。新「白鳥の湖」も、苦しみや悲しみを背負った人が前を向いて生きていけるような作品に仕上がっている。世界中を見てきましたが、これほど、全員で一つの作品を良いものへと創り上げようとするバレエ団はありません。

  公演後のアンケートに記載された言葉で、心に残る一言がある
 「松山バレエ団は私の心の洗濯機です」と書いてあり、みんなで喜んだ。バレエは美しいだけじゃなく、心が洗われる素晴らしいもの。バレエに言葉はないけれど、肉体を鍛えに鍛えて言葉を表現する。私たちが醸し出すものを見ていただきたい。感動をお届けするのが使命だと常に考え、全員の心を合わせています。

  バレエに励む若い世代にエールを送る
 技術を競うだけでなく、できたことを喜び、褒め合ってほしい。一つの作品を皆で創り、喜ばれる舞台にするには大切です。子どものころの私は、両親の拍手が励みになった。だから保護者に言うんです。「怒らずに、一生懸命やって笑顔もすてき」と褒めてあげて、と。少しずつできるようになるんだから。

 2014年。25歳で出場したバルナ国際バレエコンクールの審査員を務め、踊りも披露しました。見ていた若いメダリストが、ひざまずいてお辞儀をしてくれた。40年前に金賞を取った私が、現役で踊っているのが考えられなかったみたい。

 でも、私はまだ前に進んでいる途中。バレエは時間がかかるもの。そして多くの人の心に夢や希望をお届けする素晴らしいもの。これからも松山バレエ団のみんなと少しずつ進んでいきます。=おわり(この連載は東京支社・山本和明が担当しました)

(2016年2月6日朝刊掲載)

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