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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル発射 暴挙封じ込めへ連携を

 国際社会を愚弄(ぐろう)する暴挙である。北朝鮮がきのう事実上の長距離弾道ミサイルを発射した。「人工衛星打ち上げ」として予告していたものだ。

 1カ月ほど前に4回目の核実験を実施したばかりである。国連安全保障理事会で制裁決議が議論されているさなか、挑発を繰り返したのだ。日本で落下物は確認されておらず、自衛隊による迎撃には至らなかったが、ミサイルが上空を通過した沖縄県などに緊張が走った。到底、許すことなどできない。

 今回発射された弾道ミサイルは、最大射程が1万3千キロに達すると推定され、米本土へと届く可能性がある。核兵器が搭載できるとなれば、世界の核をめぐる状況が大きく変わる。被爆地としても見過ごせない。

 安保理決議にも明白に違反している。それなのに朝鮮中央通信は、衛星打ち上げが「完全に成功した」と報じたばかりか、「今後もさらに多く大空へ打ち上げる」と高らかに伝えた。この強硬路線をどこまで続けようというのか。

 36年ぶりに開く5月の朝鮮労働党大会に向け、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の権威を国内で高めることに固執しているようだ。対外的な緊張を高めて、体制の存続を図る。危うい思惑が透けて見える状況を放ってはおけない。

 国連安保理は、今までのようにもたついていては困る。核実験実施から1カ月たっても対応が定まらず、今回のミサイル発射を許してしまったことを重く受け止めるべきだ。米中間の温度差をなくし、次の一手を講じなくてはならない。

 米国は、既に科している制裁を、より厳しくするよう主張する。北朝鮮への石油輸出の禁止などである。しかし中国は賛同してこなかった。追い込めば、国境を接する北朝鮮が混乱し、崩壊しかねない。そうなれば、戦略上も中国の利益にならないと考えているようだ。実際、中国が貿易を通じて北朝鮮の「命綱」となってきたことは否定できない。制裁よりも、6カ国協議の再開で解決策を探るべきだと訴えてきた経緯がある。

 対話の糸を切らしてはならないのは確かだ。粘り強い外交努力が必要なのは言うまでもない。だがそれだけで愚行が止められなかったのも事実である。これ以上、北朝鮮に核とミサイル開発の時間的猶予を与えてはならない。中国も米国などと歩調を合わせ、一定の経済制裁に踏み切るべきではないか。

 力に力で対抗しようとする事態を避けるためでもある。きのう、韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権は米国とともに、米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備を検討する協議を始めると発表した。対話を通じて緊張緩和を目指す政策が頓挫し、かじを切ったとみられる。与党セヌリ党などからは「核保有論」まで聞かれ、懸念される。

 北朝鮮に方向転換を迫るため日本も動く時である。早速、安倍晋三首相は日本独自の対北朝鮮制裁の検討を指示した。さらに米国、韓国と連携し、有志国による北朝鮮への新たな金融制裁も検討している。

 日本は北朝鮮との間に拉致問題も抱えている。兼ね合いを慎重に考えながら、国際社会と連携して強いメッセージを送らねばならない。

(2016年2月8日朝刊掲載)

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