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戦争 教育の責任問う 広島大名誉教授・小笠原さん ドイツで研究書出版

 広島県教育委員長などを務めた広島大名誉教授の小笠原道雄さん(79)=写真、教育哲学・教育思想、廿日市市=が、ドイツの教育学が明治以降の日本に与えた影響を考察した全編ドイツ語の本を昨年秋、ドイツで出版した。ともに敗戦国の両国。戦争に対する教育の責任についても、日独の共同研究を踏まえて一節を充てている。(新本恭子)

 タイトルは「日本とドイツにおける教育学」。1970年代以降、ドイツの大学や国際学会での講演、シンポジウムでの発言などを基に222ページにまとめた。昨年9月、ライプチヒ大学出版から発刊され、10月に同大であった学会で主催者側から紹介されたという。

 3章構成。第1章は、明治以降、日本がドイツ教育学をどのように受容し、変容させてきたのか、その中心的課題は何だったのか、第2章は、小笠原さんの研究の柱の一つである「幼稚園」の創始者フリードリッヒ・フレーベルに関する研究について記した。

 メーンは、日本の教育課題についての第3章。70年代から顕著になったいじめ問題や、解消に向けたゆとり教育の導入、反動としての学力強化策への転換などについて、広島県教育の実態を社会全体の動向を踏まえて報告した。

 中でも、戦争に対する教育の責任に関する一節は「最も思い入れがある」という。「皇国民の錬成」を目的に、教科の編成や内容を改めた太平洋戦争末期の日本の教育を振り返り、教育学研究が国家体制に組み込まれていった経緯について問題意識を持って書いた。出版に当たり新たに書き下ろした部分もある。

 広島大副学長などを歴任。2005年にはフレーベルの研究や日独の学術交流が評価され、ドイツのブラウンシュバイク工科大から名誉哲学博士の学位を受けた。

 この本は、ドイツの教育学が日本でどう展開されてきたかがほとんど知られていないドイツに向け発信したいとの長年の思いが出発点。2000年代に入り、戦時期の教育についてドイツの研究者と共同で研究、意見交換する中で「教育が国家によりコントロールされてきた問題」に向き合う気持ちも高まっていった。

 「特に戦後70年だった昨年、広島に生きる教育研究者として強く意識するようになった。今回、広島から発信できたことに意味があると思う」。12日で80歳。現在は広島文化学園大教授として、「子どもの命を守ることを原点に、探究を続けたい」と話している。

(2016年2月8日朝刊掲載)

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