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連載・特集

70年目の憲法 第1部 暮らしに息づく <2> 法の下の平等

心は女性 自分らしく 改名で「存在認められた」

 すらりとした体形で髪は胸元まで伸びる。白のコートにジーンズ、ブーツ姿。広島県内で暮らす聡美さん(33)は男性の体で生まれたものの心は女性の性同一性障害(GID)で1月、戸籍上の名前を「聡美」に変えた。後ろ向きだった人生。「少し前向きになれた」と愛らしく笑う。

 幼い頃から女性の自覚があった。柔らかな言葉遣いやしぐさ。「気持ち悪い」「おかま」。同級生のいじめに遭った。親には「男なんだからしゃきっとしなさい」と叱られた。心と体のアンバランスに苦しんだ。打ち明けることができず、学校でも家庭でも人との関わりを避けた。大学は誰も自分のことを知らない遠くの地を選んだ。

年800人性別変更

 就職後も男として生きるしか道はないと思ったが一つの転機が訪れた。県外でバスの運転手をしていた2014年秋、飲食店で女性として暮らすGIDの店員と知り合った。「心も体も女性として、そして個人として堂々と生きる姿に心が揺さぶられた」。聡美さんは女性ホルモンの投与を受け始めた。肌が少しずつ滑らかになり、体に丸みも出た。ただ喜びとは裏腹に15年春、退社し、帰郷した。会社の健康診断の時期が迫り、体の変化を不審がられるのが不安だった。

 古里に戻り家族に打ち明けると決意した。しかし反応は冷たい。「反対はしないけど応援もできない」「関わりたくない」。それでも聡美さんは選んだ人生を生きると誓った。GID診療の福岡市のクリニックに通い、幼少期から抱く孤独感や女性として生きたい思いを伝えた。その時、改名を提案された。

 「裁判所から改名の許可が出た時、社会に個人として自分の存在を認められた気がした」。家族に自然な姿を見せるうち反応も変わってきた。妹は「聡美ちゃん」と呼んでくれる。母は最近、化粧品をくれた。

 憲法が掲げる法の下の平等。GIDを取り巻く環境は変わってきた。04年に特例法が施行され、GIDの診断を受け、性別適合手術をするなどの条件を満たせば戸籍上の性別の変更が可能になった。今は年間約800人に上る。社会の認知も少しずつ広がる。

交流通じ前向き

 ただ高い手術費用や専門医療の地域格差、法の条件の厳しさなど課題は多い。聡美さんも生活や手術費用をためるために仕事を探しているが、外見と異なり戸籍上は男性であるため、理解ある職場に出合えていない。

 昨年12月、広島市であったGIDの人の交流会に初めて参加した。それぞれが自分らしく生きる道を模索していた。まだ社会に偏見はある。女性として生きると決めた聡美さんも「不安でいっぱい」。それでも今の自分にようやく自信が持ててきた。初めてのことだ。「強く、前向きに生きていく」(久保友美恵)

 憲法14条1項 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

(2016年2月10日朝刊掲載)

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