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連載・特集

70年目の憲法 第1部 暮らしに息づく <5> 言論・表現の自由

異なる意見言えぬ空気 声を上げる意味問う

 「こういう活動している人は危険だって書き込みがネット上にあったんですけど…。本当?」

 広島市南区の保育士石川幸枝さん(70)は昨年10月、中区の本通り商店街で、安全保障関連法に反対する有志と通行人に賛否を問うアンケートをしていた時、若い女性に声を掛けられた。

抗議行動に脅迫

 石川さんは誤解だと説明し、この法律で集団的自衛権の行使が可能になったことへの危機感を伝えた。「政治への思いを発信したり、議論したりするのは変なことじゃない」。言論・表現の自由を自分なりの言葉で伝えた。

 正直、女性の言葉にハッとした。昨年、東京では抗議行動に参加した若者が脅迫される事件も起きた。福岡県の市議は反対運動を非難し、フェイスブックに「就職活動に影響が出る」と書いた。石川さんは異なる意見への過剰な攻撃によって、物を言うことに萎縮してしまう人が増えるのではないかと懸念する。

 言論・表現の自由は民主主義の根幹をなす。明治憲法にも規定があったものの「法の範囲内において」という制限が付いていた。戦時中、治安維持法に基づき政府を批判する人が逮捕されたり投獄されたりしてきた。それだけに石川さんは今の憲法を誇りに思う。「政治に対し自由に意見が言える意味をもう一度考える必要がある」

 先日、高市早苗総務相が「政治的に公平であること」と定めた放送法の違反を繰り返した放送局について、電波停止を命じる可能性にも言及。政府の態度が高圧的と感じる石川さんは「だから今こそ大切にしたい」と力を込める。

 「安倍1強」ともされる永田町。自民党が2012年の衆院選、13年の参院選で圧勝した勢いのまま、安倍政権は同年に特定秘密保護法を成立させた。14年には集団的自衛権の行使の容認を閣議決定。15年9月には安保関連法も成立した。

傍観に不安感じ

 「知る権利」の侵害や憲法違反の疑いがある―。一連の流れの中、全国で若者グループや主婦層など多くの反対のうねりが巻き起こった。しかしその声は結局、届かなかった。「声を上げても無駄でしょ…」。西区の会社員三木友也さん(37)もそんな感覚で政治を見ていた一人だった。

 支持政党もなく、政治活動をしたこともなかった三木さん。しかし数頼みとも思える政治に「このまま傍観者でいいのか」と不安を感じた。昨秋、選挙や政治の課題について考える勉強会を企画し、ネットで呼び掛けた。今月7日には初めて街頭に立ち、国政への関心の有無などを通行人に尋ねるシール投票をした。自分なりの表現だった。

 「どうせ多数決できまるんでしょ」。通行人から届くあきらめの声。「せっかくの権利が生かされていない」と三木さんは思う。自由な意見を戦わせてこそ、健全な意見が生き残る。声を上げ続ける意味をそう考えている。(久保友美恵)=第1部おわり

 憲法21条1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

(2016年2月11日朝刊掲載)

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