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社説・コラム

Let’s広響 「忘れない」演題 平和奏でる 19日定演 糀場の曲 高関がどう表現

 広島市の被爆70年の記念事業で開催する広島交響楽団の第357回定期演奏会(19日)は、「私たちは忘れない」をテーマに掲げる。焦土から復興し、未来へと向かう古里を描いた広島市南区出身の作曲家糀場(こうじば)富美子の「摂氏(せっし)4000度からの未来」など3曲を奏でる。

 「摂氏―」は、被爆70年に合わせて広響が委嘱し、昨年3月に音楽監督・常任指揮者の秋山和慶の指揮で初演した。チューブラベル(鐘)が曲をけん引し、前半は原爆に傷ついた人々の戸惑いや怒りを表現。途中、風鈴の音色が人々のつらさや悲しみを包み込み、後半はチューブラベルが穏やかに響く。

 父を含め、多くの被爆者に囲まれて育った糀場。原爆投下時には地面が摂氏4千度まで達し、放射能に汚染された土地で、めげずに力強く生きてきた人々を思い、古里へのエールを込めた20分弱の曲を紡いだ。

 指揮台に立つのは、広響第3代音楽監督の高関健。昨年11月、フィンランドの作曲家エルッキ・アールトネンの交響曲第2番「HIROSHIMA」と團伊玖磨の交響曲第6番「HIROSHIMA」を導いた高関。糀場が初演時から若干改訂を加えた曲をどう表現するのか、注目したい。

 演奏会は冒頭、ベートーベンの「献堂式」序曲で幕開けし、後半にはショスタコービッチの交響曲第10番を組み込んだ。10番は、15の交響曲の中でも傑作とされ、高関の師カラヤンが、ショスタコービッチで唯一レパートリーとした。

 ソ連の独裁者スターリンをはじめとした圧政にさらされながらも、作曲を続けたショスタコービッチ。スターリン死後の発表というタイミングもあり、さまざまな議論を呼んだ10番には、実は思いを寄せていた若い女性への恋心をしたためてあるという。自由に芸術活動をできなかった歴史と、純粋に音楽を楽しめる平和の大切さをかみしめながら演奏に浸りたい。(余村泰樹)

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 開演は午後6時45分、広島市中区の広島文化学園HBGホール。5200~4200円(学生1500円)。広島交響楽協会と中国新聞社の主催。広響事務局Tel082(532)3080。

(2016年2月11日朝刊掲載)

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