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社説・コラム

社説 シリア和平協議 早期停戦を実現させよ

 シリア内戦の政治的解決を目指す米国やロシア、国連など17カ国3機構で構成する「国際シリア支援グループ」はきのうミュンヘンで話し合い、1週間以内にアサド政権と反体制派による一時停戦の実現を目指すことで合意した。

 人道目的の停戦は最優先されるべきだ。このところロシア軍の空爆支援を受けたアサド政権軍はシリア北部で攻勢を強め戦闘が激化している。新たに数万人の民間人がトルコ国境に押し寄せたが、トルコは国境を閉鎖しており、多くの避難民がシリア側で立ち往生している。トルコの難民受け入れが限界に達していることも理解できる。

 政権軍はまた、トルコから北部最大都市アレッポへの反体制派の主要補給路を遮断した。このため、反体制派支配地域の約35万人の民間人が物資不足に直面する恐れが指摘される。

 1月に国連の潘基文(バンキムン)事務総長は「飢えを武器として使うことは明らかに戦争犯罪だ」と非難した。これほどの規模で、飢餓が人命を脅かす事態は何としても避けなければなるまい。

 内戦終結を目指し、国連が仲介する政権と反体制派の和平協議がジュネーブで1月末に始まった。2014年にもこの地で開催され、反体制派の一部はアサド大統領退陣を前提とした移行政権樹立を要求したものの、進展しないままアサド氏は政権側支配地域だけでの選挙で圧勝。解決はさらに遠のいた。

 2年ぶりに和平協議の機運が高まったのは、シリアとイラクで過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を伸ばしてパリ同時多発テロを誘引したり、欧州に大量のシリア難民が押し寄せたりしているためだ。根っこにある内戦を終結させなければならないという危機感が国際社会で強まったといえよう。

 むろん政権と反体制派が和平合意しても内戦が完全に終わるわけではない。ISや国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」は協議に参加していない。それでも政権側と穏健な反体制派が停戦し、ともにISに対抗しようという暫定的な目標で一致することが先決だろう。

 しかし反体制派は窮地にある。頼みの米政府はISの封じ込めを優先し、アサド政権の延命に傾いた。今追放すれば国家が崩壊するというのだ。優位に立つ政権側に停戦を受け入れさせるには、移行政権樹立後のアサド氏留任だけでなく、主要ポストを政権側に与えるなど懐柔策が必要との見方もある。

 過去に内戦で化学兵器を使用したとされ、今またロシア製のクラスター(集束)弾を投下したアサド政権軍の非人道的な行いは断じて許されない。

 ただしアサド政権を和解のテーブルに着かせ、反体制派への抑圧を押さえ込むための何らかの譲歩は必要だろう。部分的にせよ、停戦を実現できなければ信頼醸成もおぼつかない。

 ジュネーブでの和平協議は始まったものの、進んでいない。ロシアの空爆などに反体制派が反発、仲介役を務める国連特使が米ロの合意を先に成立させる腹で一時中断を発表した。

 ロシアはアサド政権への空爆支援を中止すべきだ。米国などとともに移行政権のビジョンを描き、努力すべきではないか。ISを利するような関係国の足並みの乱れだけは避けたい。

(2016年2月13日朝刊掲載)

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