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『やまびこ』 卒業自画像 平和の証し

 ことしも卒業の季節が近づくと安芸高田市吉田町の小川秀夫さん(87)は寂しさがこみ上げてくる。「何で自分たちは自画像が描けなかったのだろうか」。

 母校の吉田小では1917年から卒業記念に自画像を描く伝統がある。これまで6778人が筆を執り、ことしも58人が鏡の中の自分と向き合った。

 ただ、この伝統には戦中、戦後の一時期に空白期がある。小川さんの卒業は終戦の2年前。当時は習字を新聞紙の上に書くほどの物不足で「夢を考える余裕もなかった」という。

 母校で学んだ証しを残そう―。同級生で同町の岡島実さん(86)が発案し、卒業時の集合写真を加工し、31人分の自画像として2013年、学校へ納めた。

 現在は自画像の横に夢も書き添える。「夢を思い描いた時の素顔を大切にしてほしい」。小川さんたちのエールは、平和を願う切なる気持ちでもある。(山成耕太)

(2016年2月16日朝刊掲載)

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