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社説・コラム

社説 西沙ミサイル配備 軍事的な緊張高めるな

 南シナ海の軍事拠点化をやめるよう求めてきた国際社会に背を向ける行為である。中国が西沙(英語名パラセル)諸島に地対空ミサイルを配備したと米メディアが報じ、米当局者も確認した。戦闘機などが接近した際に撃ち落とすための武器だ。

 西沙諸島は中国のほかベトナム、台湾が領有権を主張し、中国が実効支配してきた。事実とすれば中国は南沙(英語名スプラトリー)諸島における人工島の造成に続き、力で支配する強硬姿勢を鮮明にしたといえる。

 それでなくても年明けからアジアの安全保障情勢は緊迫化しつつある。北朝鮮の核実験やミサイル発射問題を受け、韓国で地上配備型ミサイル迎撃システム導入の動きもある。軍事力でけん制し合う状況が強まっていけば、いずれ偶発的な衝突に至らないとは限らない。

 中国側からすれば「自国領土内での自衛の措置」との考えなのだろう。西沙諸島をめぐっては1974年に中国とベトナムの間で武力衝突が起き、実効支配につながった経緯がある。

 しかし、複数の国・地域が領有権を主張する以上、一方的に軍事的支配を強めることは決して是認できない。

 今回の動きは、米国への対抗措置という側面があろう。昨年12月に南沙諸島周辺に米軍が戦略爆撃機B52を飛行させたことや、先月に「航行の自由」作戦としてイージス駆逐艦を西沙諸島に派遣したことである。

 今後、中国は一帯の防空識別圏の設定へ準備に入るとの見方もある。だが海上交通路(シーレーン)の安全確保は、日本を含む国際社会の共通の利益であることを忘れてはならない。中国はミサイル配備が本当なら、ただちに撤去すべきである。

 こうした中国の覇権主義的な動きはこれまでの経済政策とも明らかに矛盾しよう。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)や現代版シルクロード構想「一帯一路」により、「地域の繁栄に寄与したい」としてきた。しかし国際秩序の順守や周辺国との調和を重んじてこそ経済的な結びつきが強まり、自国の利益にも合致することを胸に刻みつける必要がある。

 その中で重要なのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の対応だ。ベトナムやフィリピンなど、南シナ海で領有権を主張する国を抱えているからだ。

 米国とASEANの首脳会議は今週、「航行および航空の自由」を記した共同声明を発表した。しかし中国や南シナ海、人工島などの言葉すらなかった。中国のふるまいを懸念しつつも経済的な側面から中国の反発を恐れ、一枚岩になりきれていないのが現状であろう。

 だがこのままでは、中国の実効支配の拡大を傍観することにつながりかねない。今こそ2002年の「南シナ海行動宣言」の精神に立ち戻りたい。領有権問題の平和解決へ向け、緊張を高める行動の自制などで合意した内容だが、これまで守られてきたとは言い難い。

 強硬姿勢に対して、強硬姿勢で応じるだけなら解決にはつながらない。国際法とルールにのっとって解決することを関係国が確認し、その輪に中国を引き込む努力がいる。

 大国のこれ以上の増長に歯止めをかけるため、粘り強く対話のチャンネルを広げたい。

(2016年2月19日朝刊掲載)

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