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社説・コラム

天風録 「ノンマルトの使者」

 ノン+マルスの造語だと後年知った。昭和の特撮テレビドラマ「ウルトラセブン」の「ノンマルトの使者」という一話である。ローマ神話の戦いの神、マルスにノンを冠した。戦わぬ神、とでもいえばいいか▲この星には人類より先にノンマルトがいる、という設定だ。彼らが築いた海底都市はセブンたちの攻撃で滅ぼされる。だが英雄礼賛では終わらない。ノンマルトが真の地球人なら私たちは侵略者ではないか―。そんなやるせなさが残る結末だから▲沖縄の人、金城哲夫が脚本を書いた。6歳のとき砲弾が飛び交う本島南部を祖父と逃げ惑う。戦後上京して誘われた円谷プロでは特撮ものを数多く手掛けたが、帰郷して37歳で事故死する▲金城が志を抱く頃、沖縄はアジア一の核兵器庫になる。嘉手納で水爆が米軍機に装着される写真がきのう、本紙1面に載った。彼には沖縄の毒ガス貯蔵に題材を得た「帰ってきたウルトラマン」の一話がある。生きてこの写真を見れば何を書く―▲ことしは「ウルトラマン」放送開始50年。金城の没後40年でもある。敵の掃討に夢中になる今どきのゲームソフトとは違う、作り手の「ノン」が伝わる映像の物語をもう一度見たい。

(2016年2月21日朝刊掲載)

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