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社説・コラム

社説 国連の核軍縮作業部会 問われる被爆国の姿勢

 核軍縮の進展を目指す国連の新たな作業部会が、きょうからスイス・ジュネーブで始まる。核兵器廃絶に必要な法的措置をめぐる議論が前に進むとすれば画期的なものになろう。

 昨年12月の国連総会の決議に基づく。メキシコなど核廃絶を強く求める非核保有国の提唱で設置が決まったが、日本政府はその採決を棄権し、参加するかどうかも言葉を濁してきた。

 決定がぎりぎりになったとはいえ先週、議論に加わると表明したのは当然のことだろう。被爆国として廃絶への機運を高める役割を果たしてもらいたい。

 作業部会が新設された背景には、非人道的な核兵器が使われれば国境を越えて壊滅的な被害をもたらすとの国際世論の高まりがある。核軍縮は主に核拡散防止条約(NPT)体制下で進められ、米国やロシア、英国など核保有五大国には核軍縮交渉が義務付けられている。だが実際は軍縮は停滞し、非保有国には不満が根強い。

 もはやNPTの枠組みに任せず、核兵器を法的に禁止する条約を作ろう―。そうした流れが勢いを増したのはうなずける。五大国は作業部会には参加を予定していない。非保有国の側としては国際社会で廃絶へ向けたうねりを盛り上げ、「外堀」を埋める狙いがあるのだろう。

 そうした中で、日本政府の姿勢は依然すっきりしないものがある。核保有国と非保有国の対立が先鋭化する中で双方の「橋渡し役」を自任する立場として議論を主導したい思いは分からなくはない。半面、日本は米国の「核の傘」に依存し、核兵器禁止条約の制定にかねて反対している。条約の議論が一気に進展するのは好ましくない、というのが本音に違いない。

 それが透けて見えたのが、作業部会の運営方法についての日本政府の見解である。

 今回は5日間の会合があり、5月と8月にも開かれる。最終的には9月の国連総会に勧告と報告をする運びのようだ。その勧告の決定において日本は多数決ではなく「全会一致」を主張している。核廃絶を究極的には目指すが、保有国も巻き込んで段階的に進めていくべきだというのが外務省の言い分である。

 作業部会では核兵器禁止条約に積極的な国々が議論をリードすることが予想される。日本はあえて全会一致を掲げることでブレーキをかけようとしていると言われても仕方あるまい。

 せっかくの機運を、被爆国自らがそぐ形になりかねない。それは「橋渡し役」ではなく「核保有国の代弁者」になることを意味しないか。

 こうした日本の姿勢には、かねて市民団体などから批判が寄せられている。作業部会の入り口において、疑念を招くのは望ましくない。全会一致にこだわって議論に水を差すことがあってはならない。

 北朝鮮の核実験強行は、核拡散に歯止めがかからない現実を象徴していよう。韓国で対抗して核武装を唱える論調があるのも気掛かりだ。中東でも、核開発が連鎖的に波及する「核のドミノ」が語られている。

 核には核という流れを押しとどめるためにも核兵器そのものを禁じる枠組みが不可欠だ。今回の会合では具体的な法整備とプロセス、さらに検証方法までしっかり討議してもらいたい。

(2016年2月22日朝刊掲載)

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