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ブラジル被爆者 姿伝える 現地の研究者らポルトガル語で出版 論文や体験記収録

 ブラジル・サンパウロ大の研究者たちが論文集「ヒロシマとナガサキ 惨事の証言、記録と記憶」をポルトガル語で出版した。ブラジル被爆者平和協会会長の森田隆さん(91)をはじめ、ブラジルに住む被爆者3人の体験手記も収録。同国内の書店で販売されている。(金崎由美)

 この本は、同大研究員のクリスチアニ・イズミ・ナカガワさん(33)=心理学=ら9人が、研究発表会で講演した際の原稿などを基に執筆。過酷な原爆体験が一人一人の心理に及ぼした影響や、記憶を次世代に継承する意義について紹介している。

 ナカガワさんは、ブラジルの被爆者から証言を聞き取ったり、原爆資料館(広島市中区)所蔵の「市民が描いた原爆の絵」を用いた絵本を現地出版したりしてきた。論文集の編集を担当した今回、「人道上最悪の惨事を生き抜いた被爆者の姿と、平和への思いを知らせたい」とブラジル被爆者平和協会に協力を求めた。

 掲載しているのは森田さんと、盆子原国彦さん(75)、渡辺淳子さん(73)の手記で、計12ページ。同協会が2014年に日本語で発行した証言集「南米在住ヒバクシャ 魂の叫び」から抜粋、翻訳した。

 森田さんは、憲兵として勤務中に爆心地から約1・3キロで被爆し、大やけどを負った。盆子原さんは、原爆で母と姉を亡くした後に一念発起してブラジルへ移住。2歳の時に被爆した渡辺さんは、「黒い雨」を浴びていたことを38歳になって初めて知り衝撃を受けた。3人の手記に加え、森田さんが「あの日」の記憶を描いたクレヨン画と、ナカガワさんが「原爆の絵」に関心を寄せる中で知った森冨茂雄さん(西区)の精密な鉛筆画も掲載した。

 森田さんらは、ブラジル国内の学校を訪れて体験を語る活動に力を入れている。「何しろ広大な国。どんなに頑張っても力不足を感じることがある。自分たちが直接会えない人たちにも本が届いてほしい」と話している。

(2016年2月22日朝刊掲載)

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