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連載・特集

70年目の憲法 第2部 私の主張 <1> 漫画家・弘兼憲史氏

9条変え国際平和貢献

 日本国憲法の公布から70年目を迎えた今、憲法改正をめぐる議論が熱を帯びる。安倍晋三首相は、夏の参院選で国会発議に必要な3分の2の議席獲得を目指す、と表明している。改憲、護憲、さらには加憲…。それぞれの立場の人々に、憲法への思いを聞く。

  -代表作「島耕作」シリーズなどで、憲法9条の改正や集団的自衛権の行使の必要性を訴えています。
 日本には世界に誇る戦力の自衛隊がある。外国から見れば立派な軍隊だ。「戦力を保持しない」とする9条と整合性がない。自衛隊を軍隊と認め、憲法に明確に位置付けるべきだ。

 侵略したり不当に武力を使う国に対し、世界は団結して制裁を科す集団安全保障の仕組みで動いている。国際平和のため、他国は自国の兵士が犠牲になるリスクを負う。それなのに日本は「金は出すが、自分が直接攻撃されていないから動けない」。これでは国際的に評価されない。金を出す力も続くはずがない。海外で軍隊が武力行使できるよう憲法を改め、国の態勢を整えないといけない。

血流すリスクも

  -「身をもって貢献する日本」が必要と。
 他国から信頼され、関係が密になることは日本への侵略の抑止や平和につながる。暴れる国に単独で対応すると、軍拡競争になる。核兵器を持たないといけなくなるかもしれない。それは避けたい。同盟国で守り合う方が合理的。ただ、血を流すリスクも分かち合わないと信頼も得られない。

  -日本は戦後70年間、戦争をしてきませんでした。
 それは事実。しかし9条のおかげではなく、日米安保条約のためだ。実際、日本は湾岸戦争で130億ドルもの支援金を出したのに国際社会で評価は低かった。その状況を見た時、集団的自衛権を行使し、多国籍軍に手を貸せるようにならないと駄目だと痛感した。

 話し合いで解決し、戦火を交えないのが望ましいのは当たり前。ただ話し合いが通用しない国やテロ集団もいる。先日も中国が南沙諸島に地対空ミサイルを配備したことが分かった。北朝鮮の核実験やミサイル発射問題もあり、危機は迫っている。

一国主義でなく

  -憲法の基本原則の平和主義をどう考えますか。
 憲法前文の「再び戦争の惨禍が起こることのないように」とする一節はとても大切。過去の反省がきちんと反映されている。ただ、同じく前文にある「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」も重要だ。

 一国主義ではなく、まさに集団安全保障の理念と理解するべきだ。9条を変えて日本が海外で武力行使できるようになっても、旧軍部のように暴走することはあり得ない。日本が培ってきた民主主義は機能する。(聞き手は久保友美恵)

ひろかね・けんし
 1947年、岩国市生まれ。早稲田大卒。松下電器産業勤務を経て、74年漫画家に。「加治隆介の議」「島耕作」シリーズなど。第1次安倍内閣で「美しい国づくり」企画会議委員。68歳。

集団的自衛権
 密接な関係の他国が武力攻撃を受けた場合、自国が直接攻撃されていなくても実力行使し、共同で防衛する国際法上の権利。歴代政権は憲法の許容範囲を超えるとしてきたが、安倍政権は憲法解釈を変更。昨年9月に行使を可能にする安全保障関連法を成立させた。今年3月末までに施行する方針。野党5党は今月19日、行使容認は違憲として、廃止法案を衆院に共同提出した。

(2016年2月23日朝刊掲載)

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