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平和を望む 街を望む 原爆ドーム隣「おりづるタワー」今秋オープン 復興を感じる場に

 世界遺産・原爆ドーム(広島市中区)の東隣で今秋オープンに向け建設が進む「おりづるタワー」。マツダ車を販売する広島マツダ(中区)が築30年以上のビルを買い取って改修し、一部を観光客や市民に開放する。発案した会長の松田哲也さん(47)は事業を「人生の集大成」と位置付け、「この地だからこそ感じられる平和を、広島に思いを寄せる多くの人に」と熱意を込める。(増田泉子)

 高さ50メートル強、視界は360度。13階の展望スペースの屋根に上った。眼下にドーム、爆心の島病院(現・島外科内科)も見える。西南にはもう一つの世界遺産、厳島神社のある宮島(廿日市市)も望む。

 超高層ビルやタワーと違って、地上にいる人の顔が分かる。声も届きそうだ。「人が一人一人、復興への営みを重ねてきたのが実感できるでしょう」と松田さん。13階は壁を設けない。「風を感じながら平和公園の生の景色を眺められる場所は、ここしかない」

 創業者である祖父と従業員全員が、ドームに近い社屋で被爆死した。それでも、平和や街のあり方に深い関心があったわけではない。

 広島青年会議所で活動していた10年前、ひろしまフラワーフェスティバル(FF)に関わった。テーマの一つが夜の平和記念公園。規制を盾に取る市と折衝を重ねる中で、「やりすぎは良くないが、光や音楽にあふれた優しい街に」と望む広島県被団協の坪井直理事長とも親しくなった。初めて芝生広場でキャンドルをともし、樹木をライトアップした。

 全国を飛び回り、都会も田舎も人をいかに呼び込むかに必死なのを実感する。広島には原爆ドームと宮島があるけれど、飲み食いや買い物といった観光の裾野は十分とはいえない。そもそも肝心の平和記念公園にお茶を飲んで語り合う場が少ない。平和学習の子どもが弁当を広げるのに困っている。問題意識が膨らんでいった。

 そんなとき、ビルの購入を持ち掛けられた。12階から日がな一日、雨の公園を眺めた。大きなリュックで傘を差したまま、ドームを撮影しようと苦労する外国人。原爆資料館方向からドームに歩き、来た方へ再び戻る人々。すぐ反対側に雨をしのげる地下街があるのに、知らないのか…。

 「この場所を、ただのオフィスビルにしては駄目だ。俺の最後の仕事にしよう」。2010年、ビルを取得。環境を考慮して建て替えをせず、大規模な耐震、改修工事に乗り出した。

 昨年末には社長を譲り、プロジェクトを主導する。「採算から考えると何もできない。ここで平和をゆっくりかみしめ、何かを得る人が増えれば、おのずと結果がついてくると思う。根拠のない自信ですけど」と、完成を心待ちにする。

おりづるタワー
 地上14階地下2階。12、13階は展望スペースで、入場料は1200円(小中学生600円)。北側の相生通りに面した外壁の一部をガラス張りの空間とし、来場者が上から投げ入れた折り鶴の「壁」をつくる趣向もある。1階は特産品の販売と飲食店、2階は貸し会議室、3~11階は貸しオフィス。全体のオープンは9月23日の予定。

(2016年2月24日セレクト掲載)

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