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連載・特集

70年目の憲法 第2部 私の主張 <4> NPO法人日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事・谷山博史氏

NGO守る9条の精神

  -イラクやパレスチナなどの紛争地で医療や教育の支援をする立場から憲法の価値をどう見ますか。
 不戦と世界平和への貢献を誓う前文、武力で国際紛争を解決しないとする9条は、日本の非政府組織(NGO)の精神的背景だ。9条に基づき日本は他国で戦火を交えずにきた。そこで培われた非軍事、平和のイメージはNGOの支えとなっている。

外国軍隊に反感

  -支えとは具体的には。
 2001年の米中枢同時テロの後、米国の攻撃を受けたアフガニスタンで4年半活動した。誤爆で市民が犠牲になり、現地では外国の軍隊に「介入してきて自国民を殺す」という反感が高まっていた。欧米のNGOまでマイナスイメージを持たれることもあった。

 しかし私たちの支援は好意的に受け止められた。スーダンなどでも同じ。自衛隊が紛争当事者になれば、武装勢力から日本は敵と見なされる。自衛隊員に限らず、ビジネスマンやジャーナリストも、「日本人」がターゲットになりうる。

武力応戦は泥沼

  -昨夏、NGOのネットワークが安全保障関連法への反対声明を出しました。
 私も呼び掛け人の一人。集団的自衛権の行使や弾薬の輸送を含む兵たん活動が可能になる。9条と逆行する方向に進んでしまうのか、世界は日本に注目している。実際、この声明に対し、10日間で、アフガニスタンやイラクなど36カ国331の団体から、賛同が寄せられた。

  -テロ対策への自衛隊派遣は国際貢献との意見もあります。
 今の紛争は「住民の中で戦う戦争」。市街地で銃撃が始まれば住民が巻き添えになる。治安維持の名の下でも、家族が犠牲になれば住民にとって外国軍は憎悪の対象となる。武力の応戦は出口なき泥沼だ。

 実際、現在、JVCのアフガニスタン事務所で働く現地人スタッフの一人は過去、米軍の攻撃で同胞が犠牲になることに心を痛め、村に帰って銃を手に取ろうと決めていた。

 だがJVCに携わり、医療支援の意義や、考えが違う人とも交渉して課題解決するすべを知った。「武器を持たずに対話するのかと驚き、体が震えた」と話してくれた。そんな彼は今、子ども向けの平和教育に取り組んでいる。そこにヒントはないだろうか。憲法改正を叫ぶのではなく、日本は独自の国際貢献を今こそ追求すべきだ。(聞き手は久保友美恵)

たにやま・ひろし
 1958年、東京都生まれ。中央大大学院法律研究科博士課程前期修了。86年からJVCとしてタイ、カンボジア、ラオスで活動し、2002年からJVCアフガニスタン現地代表。06年11月から現職。「『積極的平和主義』は、紛争地になにをもたらすか!?-NGOからの警鐘」(編著)など。57歳。

テロリズムと世界
 2001年、米中枢同時テロで約3千人が犠牲に。米国はテロとの戦いを宣言し、03年イラク戦争開始。04年マドリードで列車爆破テロ、05年にはロンドンで地下鉄・バス爆破テロが発生。その後も報復としてアルカイダ系組織や「イスラム国」の欧米人殺害が相次いだ。15年イスラム国が日本人2人を殺害。欧米主導の国際社会に協調する日本への敵視を示した。

(2016年2月26日朝刊掲載)

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