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連載・特集

エネルギー新時代 大手電力 原発と自由化

安定経営へ再稼働重視 コスト論議 将来を左右

 「今後は原子力の再稼働が大きなテーマ」。中国電力の苅田知英社長は、電力小売りが全面自由化される4月に就任する次期社長に清水希茂副社長を選んだ理由をこう説明する。清水氏は島根原発(松江市)で島根原子力本部長を務めた。  中電で唯一の「現役」の原発である島根原発2号機は2012年1月から運転を停止したままだ。原子力規制委員会に再稼働の審査を申請し、2年余りが過ぎた。中電は今期、2年連続で最終黒字を見込むが、来期は全面自由化の影響で経営はより厳しくなるとみる。

年550億円の効果

 苅田社長は「経営安定には原子力の稼働は不可欠」と繰り返す。2号機が再稼働すれば、火力で発電する場合より年550億円の利益の押し上げ効果があるという。既存の原発を使えば、燃料費が大幅に下がるためだ。

 福島第1原発の事故後、大手電力9社のうち7社が料金体系そのものを引き上げた。停止した原発の代わりに火力で発電した結果、燃料費が大きく上昇したのが理由である。だが、他社より原発比率が低い中電は料金体系を維持してきた。

 原発を再稼働させた大手電力は、値上げした料金を下げる動きを見せている。26日に高浜4号機(福井県)が再稼働した関西電力。既に3号機も再稼働し、新年度にも料金を下げる方針だ。四国電力も伊方3号機(愛媛県)が動けば、値下げを検討する。各社は新規参入の「新電力」に対抗するため、価格競争力を高めて顧客をつなぎ留める狙いがある。

 新電力からは原発の相次ぐ再稼働を警戒する声が聞かれる。広島県内の新電力の社長は「大手電力が原発を再稼働させ、もし料金を下げれば、全面自由化されても顧客の開拓が難しくなる」と漏らす。

 一方、福島の事故後、原発の発電コストは低くないとの見方も広がる。今月上旬に広島市中区で市民団体が開いた講演会。「原発に経済性はない。ゼロの方が合理的だ」。立命館大の大島堅一教授(環境経済学)が訴えた。

 経済産業省は昨年5月に原発の発電コストを1キロワット時当たり10・1円と示したが、大島教授は17・4円と主張。石炭火力の12・3円、液化天然ガス(LNG)火力の13・7円より高いと試算する。

安全対策を追加

 最大の理由は、福島の事故を受け、事故の対応コストと安全対策費が上がっているからだ。「原発をゼロにすれば、電気料金は安くなる」。維持費が必要なくなれば、電力会社によっては全体の発電コストが下がり、料金を値下げできると指摘する。

 島根原発の安全対策費も約4千億円となり、当初の審査の申請時に比べて4倍に膨らんだ。さらに1月、原発近くの宍道断層の評価を延長。耐震設計の目安となる「基準地震動」を引き上げるため、追加の耐震工事が必要になる見通しだ。

 安全対策費は2号機の建設費約3千億円を超えた。福島の事故以前に見積もった建設中の3号機が完成するまでの費用約4600億円も上回る可能性がある。苅田社長は「長い目で見れば、経済性は確保できる」と説明する。しかし、最終的に費用がどこまで上がるかは見通せない。

 全面自由化による電気料金の競争激化が予想される中、既存原発の発電コストの安さを認める立場でも原発の新設は難しくなるとの見方は少なくない。自由化は原発の在り方も問う。(河野揚)

(2016年2月27日朝刊掲載)

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