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漁船被曝 実態に迫る 映画「放射線を浴びたX年後2」 元乗組員・遺族 生々しく証言

 南海放送(松山市)の「放射線を浴びたX年後2」は、太平洋での米国の水爆実験による漁船被曝(ひばく)の真相に迫るドキュメンタリー映画の第2弾だ。1954年の第五福竜丸以外にもあった被害の実態を乗組員らの証言や公文書からあぶり出す。(余村泰樹)

 2012年公開の前作「―X年後」は福竜丸以外にも、米国が100回以上繰り返した太平洋核実験で被曝し、がんなどで若くして亡くなった人が数多くいることを掘り起こした。日米政府は福竜丸事件後1年足らずで200万ドルの慰謝料と引き換えに米国の責任を問わない約束をし、日本政府は放射能検査を中止。被曝した魚が食卓に上がっていたことや放射性物質が日本を覆っていた事実も、米国の機密文書などの資料に基づき指摘した。

 本作は、前作をきっかけに、元漁船乗組員の父親の死に疑問を抱き、原因を探ろうと動きだした遺族に焦点を当てる。その一人が高知県室戸市出身の川口美砂さん。小学6年の時、父一明さんを36歳で失ったが周囲には「酒の飲み過ぎだ」と言われてきた。

 元乗組員に聞き取りを重ねるうち、生々しい証言が集まった。「魚が売れんようになるから言うなと言われた」「(放射線を)浴びたか分からない。調べに来ない」。多くの乗組員が差別を恐れ、口をつぐんだり、船員手帳を破り捨てたりした現実も突き止めた。

 本作の監督をした南海放送ディレクターの伊東英朗さんは、この問題を04年から取材する。「地元で育った川口さんによる聞き取りで劇的に証言が変わった。実は厳しいかん口令で話せなかった事実が分かった」と深い闇に思いをはせる。

 ほかにも、室戸市出身の漫画家和気一作さんが、父の死の真相を漫画で残そうとする姿や、今も各地に残る放射能汚染の痕跡を専門家との調査で明らかにする様子も紹介する。

 「被曝の被害はその時で終わりでなく、ずっと続く」と伊東監督は太平洋核実験と福島第1原発事故を重ね合わせる。「太平洋核実験の被曝者は、自らの死を持って被害を裏付けるしかない。フクシマもそんな悲しい状況にならないよう記録や調査をしっかりとする必要がある」。フクシマの未来の指標にするため、取材を続けるつもりだ。

 広島市西区の横川シネマで3月8~21日(10日には出演者の川口美砂さんが舞台あいさつ)、尾道市のシネマ尾道で26日~4月1日に上映。横川シネマでは前作「―X年後」を2月29日~3月7日に上映する。

(2016年2月27日朝刊掲載)

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