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連載・特集

70年目の憲法 第2部 私の主張 <5> 民主党憲法調査会長・江田五月氏

積み重ねた解釈も重要

  ―安倍晋三首相が憲法改正に向け、踏み込んだ発言を続けています。
 安倍首相は改正の是非だけをクローズアップし、改正に熱意がある方が守旧派的な態度でいるよりいい、とのイメージをつくり出している。民主党は憲法に改めるべき点がないとは思っていない。ブラッシュアップする余地はある。

じっくり協議を

 ただ、憲法は政治のおもちゃではない。一度の選挙で決めるものでもなく、憲法審査会などで与野党が一緒にじっくり協議すべきだ。特定の党や政治家が、自身の手柄のために用いてはいけない。

  ―民主党は国民と憲法対話を進めるとしています。
 自衛隊の位置付けや地方分権、知る権利や環境権など、新たな人権も議論のテーマだ。大規模災害やテロを想定した緊急事態条項もその一つだが、だからといって基本的人権の制約があってはならない。憲法は条文だけでなく、積み重ねてきた解釈もひっくるめた全てを指す。性急にも思える安倍流の改正は、そんな戦後の歩みをご破算にするものだ。党内は、安倍政権の下では議論のテーブルにはつかない、と一致している。安倍首相は「硬直している」と批判するが、それは首相自身ではないか。

  ―改憲論では安全保障が理由の一つに挙がります。
 日本が攻められたとき、自衛隊と海上保安庁の連携に不安があるなど、制度的な落とし穴は若干ある。だが、周辺事態法や国連平和維持活動(PKO)協力法の手当てで十分足りる。しかし、安倍政権は、集団的自衛権を行使する道を選んだ。明らかな憲法違反だ。一連の動きは、世界を再び軍事ブロック化すると宣言するようなもの。戦争の脅威につながる心配もある。

対立軸を明確に

  ―野党第1党として安倍政権にどう臨みますか。
 民主党は政権を失った。反省すべき点もあった。いまだ国民に失望感が強く、なかなか支持率も上がらない。ただ、安倍首相が素晴らしいのか。支持率の高さは野党がバラバラであるためだろう。政権担当の経験がある野党第1党として、安倍政治との対立軸を明確に打ち出さないといけない。それには憲法へのスタンスは非常に大切だ。

  ―憲法改正への思いは。
 私はこの夏の参院選には立たない。正直心残りがある。国民投票の下、国民が喜び勇んで目を輝かせ、新しい憲法を手に入れるのを夢見ていた。その夢をつないでもらいたい。(聞き手は胡子洋)

えだ・さつき
 1941年、岡山市生まれ。東京大卒。判事補を経て77年、参院選全国区で初当選。その後衆院4回、参院3回当選。参院議長や法相など歴任。74歳。

憲法審査会
 国会が憲法に関する総合的な調査や改正原案を審査するための機関。憲法改正手続きを定めた国民投票法に基づき2007年、衆参両院に設置。11年11月から実質的な審議に入った。憲法改正は国会が発議し、両院憲法審査会で原案を審査する。両院で総議員の3分の2以上が賛成すれば国民投票が行われ、有効投票総数の過半数の賛成で承認となる。

(2016年2月27日朝刊掲載)

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