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社説・コラム

社説 スーパーチューズデー 日本への影響も注視を

 当初の予想からすれば思ってもみなかった展開といえる。

 米大統領選の候補者選びで、序盤戦最大のヤマ場である「スーパーチューズデー」が終わった。民主党は本命のクリントン前国務長官が指名獲得へ大きく前進し、共和党は政治経験がない実業家で異色のトランプ氏が指名争いの主導権を握った。

 今回は11州で予備選挙、党員集会が実施された。民主党ではクリントン氏がテキサス、ジョージアなど南部を中心に過半数の州で順調に勝利した。対抗するサンダース上院議員は地元の東部バーモントなどで勝利し、選挙戦の継続を表明したが支持拡大に決め手を欠いている。

 一方、共和党はトランプ氏がバージニアやマサチューセッツなど過半数の州で勝利し、保守強硬派のクルーズ上院議員は地元のテキサスなどで1位となったが伸び悩んだ。党主流派の受け皿として期待されたルビオ上院議員は予想以上に苦戦した。

 こうした中で驚かされたのはやはりトランプ氏だ。泡沫(ほうまつ)扱いされていたが、イスラム教徒の入国禁止を訴えたり不法移民追放を公言したりと過激な発言を繰り返して保守層からの注目度を高めた。予備選の本格化とともに失速するどころか勢いを増している。

 「強い米国の復活」を掲げ、既存の政治に不満を持つ草の根層の不満や怒りのはけ口となったのは分かる。しかし本選への進出を考えれば指導者としての資質が、これまで以上に厳しく問われなければならない。

 「本選で勝てる候補」として勢いを取り戻したクリントン氏も課題を残す。圧倒的に有利とみられていたのに苦戦を強いられたのはサンダース氏と比べ、格差問題に敏感な草の根層の取り込みが不十分だったからだ。そこをどう克服するのか。

 クリントン氏とトランプ氏という対決が現実味を帯びてきた以上、日本としても気が気ではない。両氏とも日本への強硬な物言いが目立つからだ。

 例えばアベノミクスの金融緩和に対し、クリントン氏は「日本などの通貨安誘導には断固たる措置を取る」との方針を示した。トランプ氏も輸出を増やすために通貨安を誘導していると中国とともに厳しく糾弾する。「日本や中国から雇用を取り戻すぞ」は、陣営のお決まりのフレーズである。日本政府が特にトランプ氏の躍進に当惑を隠せないゆえんでもあろう。

 さらに直接的な影響が大きいと考えられるのは、環太平洋連携協定(TPP)へのスタンスである。トランプ氏は「最悪の通商協定」と反対を鮮明にする。国務長官としてTPPを推進したクリントン氏にしても反対色を強めている。

 参加12カ国で経済規模の大きな米議会が承認しなければ発効しないが、共和党優位の現状を考えると、ただでさえ簡単ではない。大統領選の結果、再交渉という可能性もゼロではない。安倍政権は今国会で承認を目指すが、このまま前のめり姿勢でいいかも再考すべきだ。

 両党の指名争いは、7月まで続く。スーパーチューズデーはあくまで通過点であり、振り回されることはない。とはいえ今後、対日姿勢が焦点として浮上してくることもあり得る。今後の具体的な政策をしっかり注視する必要がある。

(2016年3月3日朝刊掲載)

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