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社説・コラム

社説 国連の北朝鮮制裁決議 着実な実行で対話迫れ

 北朝鮮の4回目の核実験から2カ月近くにわたる交渉の末、ようやくたどり着いたゴールである。国連安全保障理事会は、核実験に加え事実上の長距離弾道ミサイルを発射した北朝鮮への制裁を大幅に強める決議案を全会一致で採択した。

 国際社会からの厳しいメッセージに反発したのか。北朝鮮は決議直後のきのう、日本海に向けて短距離の飛翔(ひしょう)体6発を発射した。これ以上の愚行を重ねてはならない。決議を真摯(しんし)に受け止め、核開発を放棄すべきだ。

 今回、米国と中国、ロシアが対立を乗り越えて一定の合意に達したことは東アジアの安定に向けた大きな一歩だろう。ただ北朝鮮への制裁決議は2006年の初の核実験から5回目になる。これまでは暴走に歯止めをかけられず、制裁が十分な効果を挙げられなかったことを忘れてはならない。

 過去の教訓を踏まえてか、今回の制裁は国連安保理としても前例のない強力な内容という。石油禁輸こそ盛り込まなかったものの、航空機・ロケット燃料の輸出を原則禁止し、資金凍結の拡大など金融制裁も厳しくした。さらに踏み込んだのは、北朝鮮産の石炭や鉄鉱石など鉱物資源の一部輸入禁止だろう。豊富な鉱物は軍部の資金源とみられるだけに、着実に実行すれば打撃を与えられよう。

 しかし、気掛かりなのは「抜け道」である。北朝鮮を追い詰めて体制崩壊を招きたくない中国とロシアは米国主導の制裁案に注文を付けた。例えば鉱物資源の輸入禁止にしても、人道支援目的の場合を除外する形としている。航空機への燃料販売も民間は例外として認めた。それぞれの国がさじ加減できる余地が残ったといえる。

 制裁に実効性を持たせるために鍵を握るのは、やはり中国である。今も北朝鮮の貿易額の9割を占めるとみられるからだ。これまではモノやカネを供給する「命綱」となり、制裁を骨抜きにしてきた経緯がある。

 今回こそ足並みをそろえてもらいたい。当の中国も苦言に耳を貸さずに核軍拡をやめない隣国に業を煮やしているはずだ。

 それだけではない。中国が国連決議に同調したのは北朝鮮の暴発に備えるため、米国と韓国が軍事的な結束を固めることへの危機感があった節がある。急浮上する米軍の最新鋭地上配備型迎撃システムの韓国配備は中国にも脅威となろう。

 そうした自己都合だけではなく、世界2位の経済大国として東アジアの安定に貢献する役割も自覚してもらいたい。朝鮮半島の緊張がこれ以上高まることは、中国にも国際社会にも決してメリットはない。

 7日からの米韓合同演習は朝鮮半島情勢の悪化を受け、史上最大規模となる。それにも反発する北朝鮮が、どんな動きに出るのかは読み切れない。偶発的な衝突から深刻な事態に陥ることは何としても避けたい。

 そのためには国際社会は北朝鮮との対話を絶やさず、交渉の場に引っ張り出す姿勢も持ち続けたい。中国とロシアが唱える核問題での6カ国協議の早期再開もその一つだろう。現実には北朝鮮はすぐに姿勢を改めないかもしれないが、厳しい制裁と両輪となる粘り強い外交努力を重ねるほかない。国連の決議はそのスタートである。

(2016年3月4日朝刊掲載)

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