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「採択結果変更せず」 呉教科書問題 市教委会議が判断

 広島県呉市の市立中学の社会科教科書(歴史、公民)選定で、評価の基準となる「総合所見」の誤りを調査していた市教委は3日、臨時の教育委員会会議を開き、記載漏れなどの誤りは計1054カ所に上るとの結果を報告した。同会議は採択を変更しないと決めた。教科書は当初予定通り4月に新1年生に配る。

 会議では、市教委学校教育課の高橋伸治課長補佐が教科書採択の基準となる11の項目について報告。歴史と公民ともに記載漏れやカウントミスがあったと明かした。歴史では、今回採択された育鵬社(東京)を含む4社の総合所見に、他社の教科書について書かれた総合所見の一部をコピーしていた。

 その結果、教科書内で取り上げた人物名を書き出した箇所が、5社とも同じというケースもあった。高橋課長補佐は「人物数は評価の対象にしていない」などと説明した。工田隆教育長が教育委員4人に諮ったところ、「総合所見のミスは、選定に影響を及ぼしていない」と結論。採択結果に変更はないとした。

 工田教育長は会議後、「非常に申し訳なく、弁解の余地はない。改善に向け取り組みたい」と述べた。市教委は今後、総合所見の作成に向けた調査に十分時間をかけ、担当者の違いによる差が出ないよう改善策を練る。

 市教委は昨年7月、育鵬社の歴史と公民の教科書を採択。市民有志が公文書公開請求で資料を入手し、総合所見の誤りを発見した。

 広島経済大の田中泉教授(社会科教育学)は「これだけミスがあるのに採択を見直さないのは不自然だ。総合所見は複数の人間でチェックして厳密に作成すべきだった」と話した。(小笠原芳、見田崇志)

市民団体「採択撤回を」 呉教科書問題 市教委会議 「内容、十分に議論」

 広島県呉市の市立中学校の社会科教科書選定について、臨時教育委員会会議が「採択は妥当」との判断を下した3日、市民団体は市役所で記者会見を開き「いいかげんな結論だ」と反発を強めた。(見田崇志、今井裕希)

 選定の判断基礎となった「総合所見」に、ミスがあることを公開質問状で指摘した「教科書ネット・呉」メンバーたち3人が、会見に出席した。この日、同会議を傍聴。総合所見のミスを認める一方、採択が覆らなかった点について、中室茂さん(66)は、「ミスの責任の所在が曖昧だ」。是恒高志さん(61)は「結論ありきで議論が形骸化しているのではないか」と疑問を呈した。

 会見に先立ち、市庁舎前で開いた抗議集会では、約20人を前に「法的手段の検討を含め、採択撤回を求める」と方針を掲げた。

 この日の同会議では、教育委員から「ミスは厳しく受け止めてもらいたい」との注文が出た。一方、採択については「ミスはあったが、内容は十分に議論されている」「資料の扱いについて、総合的に判断すると、評価は変わりない」などの意見が相次ぎ、委員4人全員が採択は有効だと認めた。

 市民の受け止めは分かれた。呉市焼山宮ケ迫の主婦蜂谷晴香さん(28)は「教科書選びは、より慎重に扱ってほしい」と注文した。同市音戸町の主婦坂本梨奈さん(28)は「教科書の内容がきちんとしていれば、過程でのミスは大きな問題ではない」と理解を示した。

(2016年3月4日朝刊掲載)

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