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社説・コラム

『書評』 希代の作曲家 足跡を追う 「生の岸辺―伊福部昭の風景」刊行

 映画「ゴジラ」の音楽を手掛けた作曲家。枕ことばのようにそう形容される伊福部昭(1914~2006年)の多彩な魅力を掘り下げた「生の岸辺―伊福部昭の風景」=写真=が刊行された。

 著者は札幌市在住の詩人・美術評論家の柴橋伴夫さん。希代の作曲家の芸術思想を育んだものは何か、その足跡を丹念に追い、評伝的論考に仕上げている。

 伊福部は北海道釧路市生まれだが、先祖は代々、鳥取市の宇倍神社の宮司だった。著者は彼の「原郷」を求めて鳥取を訪ねた旅から説き起こし、作品に豊かな実りを与えた北海道の風土や多彩な交友を描写。新藤兼人監督の映画「原爆の子」の音楽も担った作曲家が、核時代にどう向き合ったかにも迫る。

 伊福部の音楽が宿す土俗的な生命力を、現代に響かせたい―。そんな志がにじむ450ページ余りの労作だ。発行は藤田印刷エクセレントブックス、3240円。(道面雅量)

(2016年3月4日朝刊掲載)

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