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社説・コラム

社説 辺野古訴訟の和解 問題の先送りでは困る

 米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる訴訟で、きのう国と沖縄県が急転直下、和解した。移設工事が当面中止されるという点に限っては、県側の主張が取り入れられた格好である。

 昨年から相次いだ辺野古関連3訴訟のうち、代執行訴訟でまず和解した。知事が移設先の辺野古沖の埋め立て承認を取り消したことに対し、国が取り消し撤回の代執行を求めていたものである。他の2訴訟も双方が取り下げることになる。

 国と県はいったん「休戦」して、話し合いを振り出しからやり直すことになる。工事が一定に遅れる可能性も高い。沖縄が懸念していた地方自治の危機をひとまず回避したことを、多くの県民は歓迎していよう。

 安倍晋三首相は、訴訟合戦が続くことによる普天間固定化への懸念を理由に挙げた。確かに重い決断であったに違いない。しかし発言を聞くと釈然としない点もあり、和解条項を見ると問題の先送りにすぎないことが分かる。これで何かが解決したわけではない。

 今後の展開は曲折が予想される。国と県の協議が再開されるにせよ、県知事の埋め立て承認の取り消し処分はまだ消えたわけではなく、このままなら国の「是正指示」から手続きをやり直すことになろう。決裂すれば再び訴訟で争うことまで和解条項は想定している。

 その判決が確定するまで「円満解決に向けた協議」を行うことも盛り込んでおり、係争中は沖縄の意向に反して国が工事を強行することはないだろう。しかし「判決に従う」という内容が明記された以上、沖縄は退路を断たれた格好にもなる。

 政府側から、今回の和解によって移設実現の道が開いたとの見方があるのはそのためだ。

 もう一つ見過ごせないのは、沖縄の反発を和らげる政治的な思惑である。沖縄県議選や参院選、さらに取り沙汰される衆院選などへの悪影響を懸念していたことは間違いない。サプライズ演出は政権がよく取る手段であり、選挙に向けたイメージアップ戦略でもあろう。

 しかし、それでは困る。単に本質を棚上げにして沖縄の反対の声が下火になるのを待つような姿勢なら、基地問題の根本的な解決はあり得ない。

 首相と会談後、翁長雄志(おなが・たけし)知事は「大変意義がある」としたが、内心はじくじたる思いだろう。首相が「辺野古移設が唯一の選択肢であるという国の考え方に変わりはない」と述べたことにも、知事は不満を隠せない。あらためて「辺野古には基地を造らせない」と強調した。

 沖縄は昨年夏に苦い思いをしている。菅義偉官房長官が沖縄に来て協議をしたが、成果がないまま1カ月で打ち切られ、訴訟合戦につながった。

 普天間返還の日米合意から4月で20年になる。その間、日本国内の米軍専用施設の多くを沖縄に押し付ける状況の改善は遅々として進まなかった。

 福岡高裁那覇支部は和解勧告の理由として「オールジャパンで最善の解決策を示し、米国の協力を求めるべきだ」と説明していた。ならばこれまでと違う発想が要る。基地問題の抜本的な議論を行う最大にして最後のチャンスかもしれない。沖縄が歩んだ歴史の重さを胸に、双方に真摯(しんし)な議論を求めたい。

(2016年3月5日朝刊掲載)

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