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広響コンサート 第357回定期演奏会 被爆70年 平和への祈り

 広島交響楽団の第357回定期演奏会(2月19日)は、広島市の被爆70年記念事業として「私たちは忘れない」をテーマに行われた。指揮は高関健。

 このテーマに直結するのが、2番目に演奏された、糀場(こうじば)富美子の「摂氏(せっし)4000度からの未来―管弦楽のために―」だ。広響の委嘱作品で、昨年の初演後に改訂を加えたもの。原爆投下直後の熱風と放射能汚染から復興した広島への思いと、平和への祈りを込めた作品である。

 一般的な管弦楽作品には珍しい、耳慣れない響きが満載の曲だ。例えば、チューブラ・ベル2台が舞台の離れた位置に置かれ、曲の冒頭や要所で呼応しあうさまは強く印象に残る。曲の中ほどでは数多くの風鈴が打ち鳴らされ、糀場によれば「浄化」を表すという。

 他に多種の打楽器が活躍。さらにピアノや管楽器が通常と異なる奏法で打楽器的な音を出す部分があり、これらが曲全体を引き締めていた。

 不協和音程が全体を支配する作品だが、終わりに、弦楽器群からかすかに聞こえてくる協和音に安らぎを感じる。と同時に、その響きのはかなさは、われわれが努力し続けないと平和は保たれないのだというメッセージにも聞こえた。高関と広響が細部にわたり追求して作り上げた響きが、見事に結実した演奏であった。

 1曲目のベートーベン「献堂式」序曲は対位法的書法が目立つ作品。整った中にも温かみの感じられる仕上がりとなっていた。

 休憩後は大作、ショスタコービッチの交響曲第10番が演奏された。ほの暗い、叙情的な第1楽章に対し、スピード感と重量感に満ちた第2楽章と、変化が目まぐるしい作品である。しかし、この作品でも高関の指揮の下、広響の集中度は高く、全4楽章を通して緩急のコントロールや、楽器間のバランスが素晴らしかった。

 安心して音楽を演奏し、そして聴くことのできる平和な世界が続くようにと、あらためて強く感じた演奏会であった。(魚住恵・エリザベト音楽大講師、ピアニスト=広島市)

(2016年3月9日朝刊掲載)

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