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社説・コラム

天風録 「星空の記憶」

 この季節の天空の主役オリオン座が全く目立たない。頭上に広がる大小無数の星の輝きが心にしみた。倉敷のプラネタリウムで「被災地の夜空」を見た。5年前の3月11日夜、全ての電気が消えたため生まれた満天の美だ▲まさに太古と同じような「千年に一度」の夜空だったに違いない。仙台の天文台が再現し、いま各地で上映されている。家を街を、津波で流された宮城の人たちが空を仰いだ記憶を伝える手記のナレーションとともに▲流れ星が多い夜だったそうだ。「天国に向かう魂」と感じ、つらくて目を伏せた人。老いた母の安否を気遣いつつ「星空に励まされ、勇気と力をもらった」という人。通じるのはこの夜を忘れないとの誓いだったろう▲先月、足を運んだ仙台の街の光景を思う。地下鉄の新線も開業したばかり。爪痕が癒えぬ三陸の沿岸と違い、杜(もり)の都は予想を超えた人口増が続く。にぎわう街中を天から見ると、人工のまばゆい輝きに包まれていよう▲東北一の都市の活況は喜ばしい。ただ宇宙のかなたから、あふれる光が届いた星空の美しさの意味は次の世代に語り継ぎたい。毎年3・11に一斉にスイッチを切るのはどうだろう。むろん列島全体で。

(2016年3月10日朝刊掲載)

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