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社説・コラム

著者に聞く 「大竹から戦争が見える」 阪上史子さん 知られざる古里の歴史に光

 広島県西部の大竹市。戦中は海兵団と潜水学校があり、戦後は外地からの引き揚げ港だった。同市で生まれ育った著者は、「何もない穏やかな地方の町だと思っていた古里に、尋常ならざる戦争体験があった」と語る。地元の戦後史に謎解きしながら迫り、エッセー風に仕立てた。

 広島大卒業後、兵庫県で公立高の社会科教諭に。長い間、大竹は「遠かった」という。目を向けたのは2011年、市民団体が企画した中国の海南島戦跡フィールドワークに参加してから。思いがけず大竹との深い関係を知った。

 中国最南部に位置し、戦時中、旧日本軍が侵略した海南島。戦後、そこから兵士らが引き揚げた港が大竹。「二つの土地の接点に自分がいるという実感が、調査の原動力となった」。大竹に暮らす母親を訪ねる合間を縫って市役所や図書館に通い、「戦争の痕跡」を求めて地域を歩き回った。

 本書では、そもそもなぜ、大竹にゆかりのない両親がそこに居を構えたのかに始まり、父が勤めた大企業や海兵団の歴史にも迫る。敗戦後の占領期にできた駐留軍向けの慰安施設、大勢いた在日朝鮮人の存在など、公的な資料には説明の乏しい史実にも光を当てた。「誰しも自分史や家族史があり、古里には地域史があるけれど、そのどこまでが偶然でどこまでが必然だったのか」。自らの問いに調査で答えながら、重層的に絡み合った歴史を解きほぐした。調査の過程で、加害の認識やマイノリティーへの視点の欠如など「日本の歴史認識の一端を見た気がした」とも話す。

 最初は仲間内のメーリングリストに投稿。その後まとめた冊子が編集者の目に留まり、出版となった。「見てこなかったものや見えてなかったものに目を向け、記録していく。戦争体験継承の方法として、こんなのもありか、では私もと、読んだ人に思ってもらえたら」(森田裕美)(ひろしま女性学研究所・1080円)

さかうえ・ふみこ
 1946年大竹市生まれ。兵庫県の公立高教諭を務め、2007年に退職。宝塚市在住。

(2016年3月13日朝刊掲載)

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