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連載・特集

『生きて』 マツノ書店店主 松村久さん(1933年~) <1> 復刻出版40年

幕末期の文献など270冊

 JR徳山駅に近い周南市銀座の古書店「マツノ書店」を営む松村久さん(83)=周南市城ケ丘=は、山口県内外の幕末・明治維新期の史料の復刻出版に40年取り組んできた。地方の小さな個人古書店でありながら、貴重な文献を200点以上復刻してきたことが評価され、2007年に菊池寛賞を受賞。本屋一筋を貫く。

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 子どものころから、父が開いた古本屋で店番や配達を手伝っていた。広島大在学中には貸本ブームに目を付け、若い世代向けの貸本屋「マツノ読書会」を始めました。1970年ごろは年間25万冊を貸し出す盛況で、全国から注目を集めた時期もありました。そのころに古本屋を再開。特色を持たせるため山口県の史料の収集を始めたが、目当ての本が見つからず帰ってしまうお客さんは少なくなかった。

  良い本を長く、多くの人に読んでもらうには自分で復刻するしかない―。そんなサービス精神で始めたのが出版だった
 苦労して仕入れた一冊も、一人のお客さんにしか満足してもらえない。高価で研究者には手の出ないことも。復刻すれば同時に何十、何百の人に喜んでもらえると思ったんです。「毛利十一代史」(全10巻)「防長回天史」(全13巻)など県内史料を中心に出版し、この10年は対象を県外に広げた。手掛けた出版は、気付けば270点になっちょった。

  必要とされる本を必要なだけ作る「本の産直」が信条だ
 電話やダイレクトメールで注文を受ける直接販売にこだわっている。流通経費を抑えられるし、お客さんの顔が見える。優先して復刻する本はアンケートで決めている。長年育んできた信頼関係があるんです。

 今はインターネットで本を見られる時代。活字業界はどんどん小さくなっている。うちも昔に比べ1点当たりの発行部数は減ったけれど、地方の小さな出版社がやってこられたのは、本の産直と自分の納得のいくもの以外扱ってこなかったからではないでしょうか。貴重な本に再び、命を吹き込む仕事でもあるのです。(この連載は周南支局・高田果歩が担当します)

(2016年3月18日朝刊掲載)

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