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社説・コラム

社説 北朝鮮の挑発 日本の役割が問われる

 国際社会への露骨な挑発にほかならない。北朝鮮が日本海に向けてミサイル2発を発射し、うち1発が約800キロ飛行して海に落下したもようだ。

 日本全土を射程に入れ、実戦配備されている中距離弾道ミサイル「ノドン」とみられる。事実なら弾道ミサイル技術を使った全ての発射を禁じる国連安全保障理事会決議への明白な違反であり、強い憤りを覚える。

 自衛隊が地対空誘導弾パトリオット(PAC3)配備の準備に入るなど、日米韓は警戒態勢を一段と強化している。当面、朝鮮半島の緊張緩和は望めそうにない状況である。

 1月の核実験を踏まえた国連安保理の制裁決議や、過去最大規模の米韓合同軍事演習。それらに対する反発の表れなのは間違いない。ロケット弾、短距離弾道ミサイルの発射に続くエスカレートぶりは気掛かりだ。

 それだけではない。今週、国営メディアは金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の発言を伝えた。核弾頭の爆発実験に加え、対外的な隠れみのに使ってきた「人工衛星」ではなく「多種の弾道ミサイル発射実験」を堂々と早い時期に行うというものだ。なりふり構わない強硬姿勢といえる。

 2年ぶりのノドン発射は、わが国への威嚇という見方もできよう。拉致問題の交渉をめぐっていったん緩めた経済制裁を強化した上、人権状況に関して国連の新決議案提出などで北朝鮮を追及する動きを加速させているからだ。核弾頭の搭載能力はまだないという見方が多いが、ノドンに関する技術は向上が伝えられる。日本にとって脅威の度合いは確かに増している。

 ただ必要以上に慌てれば、相手の思うつぼだ。安倍晋三首相は国会で「国際社会と緊密に連携し、毅然(きぜん)として対応する」と表明した。主要国(G7)首脳会議(サミット)の議長国として、冷静に事態を見極める役目も担っているはずである。

 中国を巻き込んだ各国の経済制裁はエネルギーや金融などの分野でかつてなく踏み込んだものの、現時点では北朝鮮を翻意させるに至っていない。だからこそ包囲網を粘り強く築き、金第1書記をこれ以上暴走させない手だてが求められる。

 今月末から米国で開かれる核安全保障サミットに合わせ、日米韓首脳会談を行う案が浮上している。さらに4月には広島でG7外相会合が開かれる。朝鮮半島の安定化に向け、まさに日本外交の真価が問われる。

 その基軸になるべきは非核化を追い求める被爆国の信念ではないか。だからこそ、参院予算委員会での横畠裕介内閣法制局長官の答弁に強い疑問を抱く。

 日本の核兵器使用が憲法に違反するかどうかを問われて「憲法上あらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているとは考えていない」との見解を示した。過去の政府見解には沿ったものとはいえ、法制局長官が核の「使用」について国会で言及すること自体が異例である。

 菅義偉官房長官は、その後の会見で将来的な核保有は「全くあり得ない」と強調したが、ただでさえ核兵器廃絶に向けた日本政府の消極姿勢が、少なからぬ国から批判されている。場合によっては核を使えるという憲法解釈なら、北朝鮮に限らず他国の核開発を正当化しかねないことも重々に認識すべきだ。

(2016年3月19日朝刊掲載)

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