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社説・コラム

天風録 「始皇帝と中国」

 大人気の漫画を遅まきながら読み始めた。既に41巻を数える原泰久氏の「キングダム」。古代中国の名もなき少年が武将となって、若き日の「秦の始皇帝」嬴政(えいせい)と天下統一に挑む。戦国の世のリアルな描写に引き込まれる▲教科書で習う始皇帝への関心も高まったのだろう。九州国立博物館の「始皇帝と大兵馬俑(よう)」展に足を運ぶと、若者の姿が目に付いた。巨大な陵墓近くで出土した、将兵をかたどる等身大の陶製人形の迫力に圧倒される▲地味だが存在感ある遺物もあった。秦の宮殿の治水対策らしき水道管だ。2200年前のインフラの技術力がいかに高かったか。同時に大工事に動員された名もなき人たちの苦難も思う▲無理に比べるつもりもないが、つい現代のリーダーの顔が浮かぶ。逆風の全人代を乗り切り自信を深めたか。指導部批判の疑いでコラムニストを拘束するなど、言論統制の色を強める。秦の時代の「焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)」を中国の教科書はどう教えるのだろう▲後世に暴君扱いの始皇帝の死から4年で、王朝は滅びる。ただ漫画の世界では統一への足固めの最中で、理想を掲げる力強いヒーローだ。この先どうなるか。中国の人たちも一緒に読んでくれれば。

(2016年3月22日朝刊掲載)

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