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社説・コラム

天風録 「ヘプバーンとベルギー」

 子どもたちに食べ物と笑顔を―。ベルギーに生を受けた「銀幕の妖精」は晩年、ユニセフ親善大使として、内戦や飢饉(ききん)に苦しむアフリカやアジアの国々を駆け巡った。「ローマの休日」などで知られるオードリー・ヘプバーンさん▲アンネ・フランクと同い年で、やはりナチス占領下のオランダで飢えや死の恐怖におびえた。ユニセフへの献身はその体験ゆえか。しかし世界の混迷は今も続く。生まれた街でのテロを知れば、嘆き悲しむことだろう▲「欧州の首都」でもある国際都市ブリュッセルで、空港や地下鉄が続けて爆破され、罪のない多くの人たちが死傷した。自爆犯は地元に住む兄弟らしいが、過激派組織「イスラム国」(IS)がどう関与しているのか▲現場から逃げ惑う人々の青ざめた顔。一方で、命からがら欧州に逃れた難民たちの顔には、高まる排斥機運への不安が色濃くなる。憎しみを連鎖させる大人たちに対して、いつの世も無力な子どもは絶望するしかない▲生前、ヘプバーンさんは訴えていた。「大勢の子どもが毎週死んでいるのに、誰も本気で語ろうとしない。私たちの最大の恥であり悲劇です」。一体いつ、エンドマークが打てるのだろう。

(2016年3月24日朝刊掲載)

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