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社説・コラム

社説 ベルギー同時テロ 軍事だけで封じられぬ

 欧州でまたも大規模なテロが起きた。今度はベルギーだ。国際空港や地下鉄の駅で無差別に市民を巻き込み、多くの死傷者が出て日本人も巻き込まれた。断じて許されない蛮行である。

 現場となった首都のブリュッセルは、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)も本部を置く「欧州の首都」である。フランスのオランド大統領は直ちに「欧州全体が攻撃を受けた」と表明した。

 ベルギー警察は、昨年11月のパリ同時テロ実行犯の1人として国際手配されていたフランス人容疑者らを拘束したばかりである。ミシェル首相は「テロとの戦いに成功した」と宣言していただけに、衝撃は大きい。

 過激派組織「イスラム国」(IS)系の通信社はIS戦闘員がテロを実行したと主張している。「ISと戦う有志国連合に参加する国の首都」であるブリュッセルを標的にした、と。ただ現地からの報道によれば自爆したのはブリュッセル在住の兄弟であると伝えられる。実際に組織的関与があったのか、あるいは自爆を自己目的化した独自の行動なのか。解明を急ぐべきだ。

 ブリュッセル国際空港はEU域内を結ぶハブ空港の役割を果たし、年間2千万人以上が利用する。外国人の観光客、ビジネス客も多いとなれば、動機が何であれ、テロはEU全体のダメージにつながるに違いない。

 とはいえベルギー固有の国内事情もテロの遠因とはいえないか。この国は北部オランダ語圏と南部フランス語圏の深刻な「言語対立」を含め、文化的な摩擦を長年抱えてきた。

 こうした対立が時に政治空白にもつながり、2010年から11年にかけて、正式な政権が540日以上も存在しない異常事態に陥った。その結果、テロに対処する警察力の強化は後れを取ることにもなった。

 さらに首都圏には中東などからの移民街が広がる。失業率が高く社会参加の機会も乏しい。拘束したパリ同時テロの容疑者も、この地域の出身者であり、今回のテロの後も爆弾やISの旗が家宅捜索で見つかった。貧困地区で育つ若者に居場所を供し、過激思想の誘惑を断つことがいかに重要か。パリとブリュッセルのテロを通じて明らかになったことではないか。

 有志国連合はシリアやイラクのIS拠点へ空爆を続け、パリ同時テロ後は掃討作戦を強化した。それでも軍事手段だけで壊滅させることができないのは火を見るより明らかだ。

 ISのテロは反イスラム感情をあおり、一般のイスラム教徒を市民社会と分断しようとする狙いもあるに違いない。ひいては欧州の国々がシリアなどからの難民の流入を規制しようとする流れを加速させ、排外感情をあおる。それがさらにテロの口実と化す恐れも否定できない。

 日本政府は5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)などを控え、警備強化に万全を期すことになろう。安倍晋三首相はテロを厳しく指弾した上で「国際社会と連携し、対応しなければならない」と述べた。

 無差別テロは自由や民主主義といった普遍的価値への挑戦でもあり、国際社会が結束して臨むべきなのは当然だ。日本ならではの貢献を模索したい。

(2016年3月24日朝刊掲載)

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