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子どもに記憶継ぐ使命 大震災5年 日本ペンクラブが広島でフォーラム 

戦争・原爆・原発テーマ 平和生む創作誓う

 東日本大震災から5年の節目に、広島市で日本ペンクラブのフォーラム「子どもたちの未来、子どもの本の未来」があった。戦争や原爆、原発を題材に物語を紡いできた作家たちが参加。記憶を次代に語り継ぐための創作の意義や可能性について、被爆地で語り合った。(石井雄一)

 「戦争をテーマにすると小説は売れない。でも一つの文学として残す、大きな使命がある」。同クラブ会長の作家浅田次郎さん(64)は基調講演で、そう力を込めた。戦後生まれの立場で、戦争小説を手掛けてきた。物言わぬ死者の重圧に「ペンが震える」思いで書き上げた、長編「終わらざる夏」もその一つ。終戦直後、北の孤島であった知られざる戦闘に光を当てた。

 「神風特攻隊や南の島での玉砕。僕たちは、あるパターンで記憶しているだけで、戦争の実態がほとんど伝わらなくなっているのでは」。記憶の風化の正体は画一化だ、と浅田さんは指摘する。だからこそ「今の子どもたちには、さまざまな戦争の形を伝えていくべきだ」と訴えた。

 フォーラム後半は、評論家の野上暁さん(72)を進行役にパネル討論があった。3歳の時に広島で被爆した児童文学作家の那須正幹さん(73)は、原爆資料館をめぐる家族のエピソードを紹介。幼い頃に資料館を訪れて恐怖で固まっていた長女が最近、再び訪れたいと言い、熱心に見学していたという。

 2013年に松江市などで起きた漫画「はだしのゲン」の閲覧制限にも触れ、「子どもの時の出合いが心に残り、大人になった時に検証しようとするケースもある」と強調。出合いと再考のきっかけになることを願い、「これからも原爆や戦争のことを書いていく」と語った。

 「福島の原発事故が起きた時、私たちが十分にヒロシマを伝えてこなかったからだと、大きな悔いに心をかまれる思いがした」と明かしたのは、広島市出身で被爆2世でもある児童文学作家の朽木祥さん(59)。自戒も込めて震災翌年に刊行した「八月の光」は、あの日を生き延びた人々の物語を丁寧に描く。

 「この世界は小さな物語が集まってできている。それを丁寧に書いていくことで、ヒロシマという巨大な事件の輪郭を浮かび上がらせられるのでは」と問い掛けた。

 直木賞作家の森絵都さん(47)は原発事故後、取り残されたペットを助ける人たちや福島にとどまった酪農家を取材。ノンフィクション「おいで、一緒に行こう」と絵本「希望の牧場」に著し、実情を伝えてきた。同時に湧き上がったのは物語の創作、フィクションへの意欲だったという。

 目に見えない放射線について考えることで、物語もまた「つかみどころがなく、受け取り方も、影響の表れ方も人それぞれ」と感じた。「放射能が人間の破壊に向かうなら、物語はその対局にある平和を生むものであってほしい」。創作への決意をそんな言葉に込めた。

(2016年3月25日朝刊掲載)

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