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連載・特集

70年目の憲法 第3部 分岐点を生きて <4> 揺れる9条

護憲派 問われる存在感 安保法廃止 旗印に結集

 夏の参院選に向け、安保関連法廃止や立憲主義を旗印に、野党の選挙協力が進む。「安保法が憲法に焦点を当てた。護憲派を再結集し、存在感を示す好機」。社民党広島県連顧問の金子哲夫さん(67)は広島市内の県連事務所で力を込めた。

 会社員時代の1970年代、労働組合の活動で原水禁運動に参加し、9条への思いを強めた。その後、旧社会党県本部の専従職員に。冷戦下、自民党と対峙(たいじ)した「55年体制」の時代。改憲を党是とする自民党に対し、護憲政党として改正発議に必要な3分の2の議席を与えなかった。9条が常に改憲議論の軸にある中、防波堤の役目を果たしてきた。

「90年代が転機」

 「護憲派にとって90年代が転機だった」と金子さん。安倍晋三首相が在任中の改憲や9条改正に踏み込んだ発言を繰り返す現状の底流に、その時代をみる。

 92年、自衛隊の海外派遣に道を開いた国連平和維持活動(PKO)協力法が成立した。旧社会党が「憲法違反」と徹底抗戦した2年後、政界再編に伴う連立政権で首相になった村山富市党首は自衛隊合憲、日米安保の堅持を表明し、党の基本政策を転換した。当時、国会議員秘書だった金子さんは「護憲運動の訴えの柱が揺らいだ。9条、ヒロシマが問われた」。

 党の分裂、中選挙区制から小選挙区制への移行、支持母体の労組の再編…。護憲勢力に逆風は吹き、足場が揺らぐ。

改憲の議論加速

 東洋大の加藤秀治郎名誉教授(政治学)はこうした政治状況と同時に「(旧社会党の)現実路線への転換が遅れた」と指摘。「野党の多党化で護憲派の存在感が薄れた」とも分析する。一方で、改憲議論を加速させる自民党について「戦後の60年安保のショックで、長く改憲論が打ち出しにくい状況にあった。しかし次第に薄らぎ、結党時代の精神に戻ってきた」とみる。

 中国新聞社加盟の日本世論調査会が2月末に実施した世論調査では、9条改正の「必要はない」が57%と過半数を占め、「必要がある」の38%を上回った。

 戦後70年が経過し、護憲運動をリードしてきた戦争の体験者は減る。金子さんは「『戦争反対』一辺倒の訴えでは支持が広がらない」とも思う。しかし今、世界を見渡せば紛争やテロが相次ぐ。安保法の成立を機に、「人ごとではない」と世代を超えて反対の声が広がる。「今こそヒロシマの地から9条の意義を発信しないといけない」(胡子洋)

(2016年3月27日朝刊掲載)

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