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連載・特集

70年目の憲法 第3部 分岐点を生きて <5> 格差社会

雇用不安 描けぬ将来像 「派遣」急増 若者ら疑問

 広島市中心部のカラオケルームに21日、高校生から社会人まで10~30代の30人が集った。自分たちの暮らしと政治への思いを語るトークイベント。同世代の広島の若者グループが夏の参院選を見据えて企画した。

「進学を諦めた」

 「派遣社員は職場で立場が弱い」「友人は学費が払えず進学を諦めた」―。社会の格差に関連する発言に主催者の一人、西区の会社員大庭雄策さん(35)は真剣な表情で耳を傾けた。

 大庭さんはいわゆる「ロスジェネ世代」だ。この世代は就職氷河期(1990年代初め~2000年代前半)に学校を卒業した人を指す。低成長時代しか知らず、「派遣」という働き方が急増したのもこの頃だった。「勝ち組・負け組」の言葉もよく聞かれた。

 大学時代、両親が営む山陰地方の自動車整備工場の経営が悪化し、中退を余儀なくされた。無給で工場を手伝ったが倒産。一時期、液晶製造工場での派遣労働を経験した。大庭さんは「雇用不安はロスジェネ世代や若者にとって深刻な問題」。憲法は平等、個人の尊厳をうたう。今、そんな社会だろうか―。疑問がイベントを開く動機になった。

 厚生労働省の調査では、パートや派遣など非正規労働者が急増し、昨年10月時点で労働者の約4割を占める。中でも35~54歳の働き盛りの世代は00年に106万人だったが、15年には273万人まで増加した。

狭まる正社員枠

 そもそも労働者派遣は戦前、作業員の「供給業」と称して行われた。ただ、強制労働や中間搾取が相次いだ。労働者の人権を守るため、1947年施行の職業安定法で、労働者の派遣を原則禁止とした。しかし86年、雇用の多様化を求める経済界などの要請で労働者派遣法が施行される。99年、2004年と改正が続き、適用業務は拡大。逆に正社員の枠は狭まった。

 東区で両親と暮らすアルバイト男性(37)は、毎日午前4時半に起きてビルの清掃に向かう。時給は820円。独身。作業中、焦りや将来への不安が襲う。「このままじゃいけん」。正社員を志向するものの、派遣労働や契約社員を結局転々とする。「全てが政治の問題とは思わないが、憲法が描くような安心して働いて暮らせる社会になれば」

 安倍晋三首相は正社員と非正規労働者の「同一労働同一賃金」の実現に意欲を示し、法改正の検討を始めた。大庭さんは「政治の本気度に期待したい」としつつ、「賃金だけでなく、安定して働ける期間にも大きな差がある。幅広い視点で是正を図ってほしい」と願う。(久保友美恵)=第3部おわり

(2016年3月28日朝刊掲載)

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