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中国地方 不安と評価 安保法施行 「テロに巻き込まれる」 「国守るため一歩前進」

 集団的自衛権の行使を可能にし、戦後の安保政策を大きく転換する安全保障関連法。中国地方では、29日の施行に、自衛隊関係者の不安と前向きな受け止めが交錯した。被爆者や識者からも反対、賛成の双方の意見が聞かれた。

 艦艇が出入港する海上自衛隊呉基地がある呉市。30代隊員男性は「銃を構える覚悟はできているが、事態に遭遇してみないと分からない。心身の調子を崩す隊員も出るのでは」と漏らす。一方、呉弾薬整備補給所と海自第1術科学校がある江田島市の40代隊員男性は「米軍と対等な関係を築けることになり、誇りをもって任務に当たれる」と捉えた。

 関係者の思いもさまざまだ。自衛隊員の夫を持つ呉市の30代女性は、北朝鮮のミサイル発射に伴って夫が日本海の警戒任務に就いた時、連絡が取れず不安な日々を過ごしたという。「今後は夫が海に出るたび、命の心配をしなければならない」と憂慮。自衛隊行事の協力などをしている山口県防衛協会岩国支部の吉良昭治支部長(59)は「軍備増強を続ける中国や北朝鮮の脅威が差し迫る中、この国を守るために一歩前進した」と意義を強調した。

 テロや紛争に巻き込まれることへの懸念は根強い。米海兵隊岩国基地(岩国市)の機能強化などに反対する市民団体「住民投票の成果を活(い)かす岩国市民の会」の大川清代表(57)は「ベルギーでテロがあったばかり。米軍と一体的に活動することで、岩国もテロの脅威にさらされるのでは」と危ぶむ。

 「国民は施行後も政府任せにせず、平和のために関心を持ち続けるべきだ」と訴えるのは、広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(74)。内閣法制局長官が「憲法上あらゆる種類の核兵器の使用が禁止されているとは考えていない」との見解を表明したことにも触れ、「紛争、戦争に巻き込まれた場合、どうなるのか一層不安が募る」と指摘する。

 成立前から同法に反対してきた歌手で僧侶の二階堂和美さん(42)=大竹市=は「法には依然として反対の声が多いのに、まるで聞こうとしない政府の姿勢は受け入れがたい。武力行使を否定するという理想は手放したくない」と力を込めた。

 一方、同法を一貫して評価してきた広島大大学院の秀道広教授(58)=皮膚科学=は「安保法は世界の人々が平和に共存するための方策の一つであり、法の施行によって戦争ができる国になるという反対派の主張は、論理的思考を欠いた扇動だ」と指摘した。

(2016年3月29日朝刊掲載)

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