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悩めるヒロシマ がれき処理 被災地は期待 県民に不安 行政動けず要望

東日本大震災で発生したがれきを全国で受け入れる「広域処理」が進まない中、被爆地広島の動向が注目されている。被災地は「広島が受け入れ判断すれば全国にも波及する」と期待し、広島県議会でも是非をめぐって激しい論戦となっている。ただ、県民には放射性物質への不安も強い。県も広島市も動くに動けない状況だ。(門戸隆彦)

 「被爆の風評被害と闘ってきた県だからこそ、受け入れの表明を期待されている」。9日の県議会予算特別委員会で、民主県政会の岩下智伸氏(安芸郡)が震災がれきの県内受け入れを促した。湯崎英彦知事は「積極的に受け入れるべきだが、国民の理解が不十分」と現時点では困難との考えを示した。

 開会中の定例会では連日、震災がれきをめぐり質疑が続く。「国が安心の基準を出して国民に説明するのが第一義だ」。県の姿勢に理解を示す声もある。

 広域処理は東京、山形、青森の3都県で始まった。政府が全国の自治体に繰り返し協力を要請する中、広島県内で受け入れ表明したり、前向きに検討したりする市町はない。

 県には8日までに、受け入れの是非をめぐり207件のメールが寄せられた。85%の176件が反対で「放射能汚染の恐れがある」などと訴える。「被爆地として受け入れるべきだ」といった賛成は31件。広島市に届いた65件の意見も反対が56件に達し、賛成の9件を大きく上回る。

 福島第1原発事故で対応が迷走した政府への不信感も大きい。放射性セシウム濃度が1キログラム当たり100ベクレル以下は一般廃棄物として処理できるとされていたが、環境省は1月、その範囲を8千ベクレル以下に拡大した。「いきなり8千ベクレル以下と言われても基準があいまいで受け入れられない」と広島市の夏明秀嗣環境政策課長。

 一方の被災地。宮城県が広域処理を望む約344万トンのうち、搬出が決まったのは約5万トンだけ。仮置き場は満杯で被災家屋の解体も進まない。小泉保環境生活部長は「放射線被害を経験した広島ならばインパクトは大きい。痛みを知る地域としてお願いできれば」と訴える。「県民の安心・安全が確保できれば受け入れたいが、国が信頼感を取り戻さない限り難しい」。広島県の幹部は打ち明ける。

 震災がれきの広域処理について、広島県の湯崎英彦知事は9日の県議会予算特別委員会で、住民説明会の開催を国に要請する考えを表明した。

 湯崎知事は「国が直接、住民に考え方を説明し、意見を聞く場を設けるよう要請したい」と述べた。山口県の二井関成知事が国の説明会を求めている点にも触れ、「まったく同じ考え方」と賛同した。

 広島県によると、住民説明会は対話形式のタウンミーティングにするよう国に提案しているという。予算特別委は9日、2012年度当初予算案の総括審査を本格的に始めた。(野崎建一郎)

 東日本大震災で発生したがれきは推計で約2252万トン。宮城県では19年分、岩手県では11年分が発生したとされる。環境省は2014年度までの処理を目指し、全国の自治体に協力を要請している。福島第1原発事故が起きた福島県のがれきは、県内処理を原則としている。

(2012年3月10日朝刊掲載)

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