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連載・特集

『生きて』 マツノ書店店主 松村久さん(1933年~) <10> 本の産直

書店に卸さず直接販売

  必要とされる本を必要なだけ作り、必要とする人に直接販売する「本の産直」を貫く
 出版を始めた時、①刷部数は千部まで②定価は3千円以上③完全原稿であること④決して急ぐな⑤年間6点以内―という出版5原則を作った。内容は山口県の歴史と民俗に限ってね。時代の流れで刷部数や定価なんかの数字は変わったけれども、ずっと貫いています。10年目くらいに、1200円の本を5千部も刷ったことがあった。あまり売れず赤字になってね。やはり5原則を守った方が黒字になる。同じ傾向の本を続けると飽きられ、売り上げが落ちる失敗はよくあるけれどもね。

 ダイレクトメールによる直販に徹し、書店への卸しはしない。約1500人のお得意さんへ2、3年に1度アンケートをして、優先的に復刻する本を決めている。どれくらい売れるのか把握できるから、極端な売れ残りの防止につながる。何よりお客さんの顔が見えるからね。注文を受けたら即日発送。長年かけて築いてきた信頼関係があるんです。

  毎朝6時には店に出て、得意先に送るパンフレット作りや、買い集めた古本から復刻するべき本の発掘に取り組む。県外の得意先の声に応え、明治維新全般に守備範囲を広げた
 出版が決まったらパンフレットを作る。釣りでいう餌みたいな物で、最も重要な仕事。研究者たちに依頼して書いてもらった推薦文や目次、本の一部の写しを配置する。

 何点かは再版もした。1991年に一大決心の末、復刻した維新全史「防長回天史」(全13巻)はその一つ。古本屋は復刻に値する本を見抜く目をある程度持っている。「量より質」で、出したい本を着実に作っていくのが古本屋の出版なのだ。

  86年、「反面教師だった」という父勇さんが82歳で亡くなった
 あれやこれやと手を出す人でね。古本屋に新刊を置いてみたり、ミニコミ誌を作ってみたり。店内でしるこ屋も始め、お客さんの要望でしまいにはうどんも売りよった。健全経営には程遠く、借金もあって苦労した。2代目の私が店を広げず欲張らず、貸本、古本、出版と続けられたのは、おやじの後ろ姿から学ぶことが多かったからかもしれんね。

(2016年3月31日朝刊掲載)

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