×

社説・コラム

『記者縦横』 平和公園 由来持つ木々

■ヒロシマ平和メディアセンター・増田咲子

 「これらの木が東京の被爆者や家族の心のよりどころになれば」。平和記念公園(広島市中区)を案内しているピース・ボランティアの恵美勇作さん(73)=広島県熊野町=は、公園内のイチョウの木を見上げた。

 恵美さんは、原爆供養塔東側のイチョウ8本が45年前、東京の被爆者団体「東友会」会員らによって植樹されていたことを本紙記事や幹の太さから突き止めた。連絡を受けた同会には当時を知る人はいなかった。広島市にも記録が残っておらず、その事実は忘れ去られる恐れがあった。

 恵美さんと公園を歩き、樹木にまつわる話を教えてもらった。原爆慰霊碑西側のヒマラヤスギは1957年、インドのネール首相が植樹した。ヒロシマ訪問を希望したネール氏は、忙しい日程を割いて数時間だけ滞在。公園では市民約3万人が歓迎した。また、原爆ドームの近くには、ナチスドイツが住民を虐殺したチェコのリディツェ村から贈られたバラがあるのではないかとみて調べている。

 広島市は2015年度、公園内の樹木約1500本のうち約360本が国内外から寄せられた樹木だと確認した。しかし、イチョウのように市に記録がないケースもあり、市民からの情報を募っている。

 公園は、平和を願う世界の人々の思いが結集した森のように感じる。ただ、寄せられた樹木全てに説明板や碑があるわけではない。樹木の由来に思いをはせながら散策できる工夫があれば、と思う。

(2016年4月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ