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連載・特集

ヒロシマの声 外相会合を前に <1> 被爆者・岡田恵美子さん=広島市東区

 広島市で10、11日、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合がある。広島に原爆を投下した核超大国の米国、同じく保有国の英国、フランスを含む世界7カ国と、欧州連合(EU)の外交政策の責任者が被爆地に集い、核軍縮を議論する。「核兵器なき世界」と平和の構築へ、何を期待するか。ヒロシマの被爆者や若者の声を聴いた。

被爆者・岡田恵美子さん(79)=広島市東区

被害の実態 心に刻んで

 核兵器が使われたら、きのこ雲の下で人間がどうなるか。外相は平和記念公園を訪れ、形式的に花を手向けるだけでなく、被害の実態に触れてほしい。原爆資料館では、黒焦げの弁当箱や破れた制服といった学徒の遺品を見て。亡くなった男の子、女の子の命と魂を感じ、もし自分の家族ならばと考えてもらいたい。核兵器、戦争をなくすために行動するしかないはずだ。

関心高さ感じる

 ≪8歳の時に尾長町(現東区)の自宅の庭で被爆。広島県立第一高等女学校(現皆実高)1年の姉は建物疎開作業に動員され、亡くなった。2008年の北海道洞爺湖サミットの前に参加各国の首脳宛てに広島訪問を要請する英文の手紙を送った。≫

 洞爺湖サミットの際はイラク戦争への危機感から手紙を送り、米国など4カ国から返信があった。どれも日程を理由に訪問は断られたが、広島への関心の高さは感じた。

 翌09年4月に米国のオバマ大統領がプラハ演説で「核兵器なき世界」を訴え、長いトンネルの先に明かりが見えた気持ちになった。なのに、任期が残り1年を切っても、期待した広島への訪問はまだ。昨年12月にノーベル平和賞の授賞式に招かれて訪れたノルウェーで証言したが、被害の実態は国際的にまだまだ知られていないと感じた。

加害含め説明を

 ≪広島、長崎両市が昨年12月、伊勢志摩サミットに合わせた首脳の被爆地訪問を要請。ただ、政治指導者の被爆地訪問などを促す同月の日本の国連総会決議に米国、英国、フランスは棄権し、中国、ロシア、北朝鮮は反対した。「実態を見てほしい」という純粋な声さえも国際社会の駆け引きの中で通らない。≫

 「日本はパールハーバーで…」。米国で証言した際、原爆投下を正当化する声に直面した。オバマ大統領自身は広島を訪れたくても簡単には許されない国内事情はあるのだろう。今回の外相会合に参加するケリー国務長官が、広島を訪れる意義を伝え、大統領訪問につなげてほしい。

 原爆では朝鮮半島や中国出身の徴用工、米国人の捕虜、東南アジアの留学生たちも犠牲となった。日本は、植民地支配などの背景も含めて説明した上で、核兵器にとどまらず、戦争そのものを法律で禁じる方向へと、各国と目指してほしい。被爆71年。被爆者の体力の衰えは隠せない。記憶の継承と核兵器廃絶へ新たなスタートを切る、価値ある外相会合になるよう期待している。(水川恭輔)

おかだ・えみこ
 1937年生まれ。広島市東区在住。原爆資料館のピースボランティアを長年務めた。全米原爆展など海外でも精力的に被爆証言をし、昨年12月にはノルウェー・オスロのノーベル平和賞授賞式に招かれて出席した。被爆者の記憶と平和への願いを次代に伝えるために市が養成する「被爆体験伝承者」の講師も務める。

(2016年4月1日朝刊掲載)

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