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全米原爆展1年 70都市で開催 被爆の実情 全米に浸透

■記者 森田裕美

 米国101都市で開催する広島市の「全米原爆展」が始まってから1年になった。これまで70都市の米国市民が被爆の実情に触れ、核兵器廃絶に向けた取り組みを始めるなど成果も出てきた。

 昨年9月14日にニューヨーク州ロチェスター市から始まり、首都ワシントンと34州の計70都市で開いた。うち23州41都市には、在米被爆者も含め計13人の体験証言者を派遣した。

 原爆資料館啓発担当によると、報告があった今年3月末までに約1万人が会場を訪れ、6132人が被爆証言をじかに聞いた計算になるという。

 「全米の人口からするとわずかかもしれない。だが、意義は大きい」。協力を申し出てコロラド州の会場に赴いた県被団協(金子一士理事長)事務局長の吉岡幸雄さん(79)=広島市南区=は振り返る。原爆投下が戦争終結を早めたとの認識が根強い米国では想像以上に被爆の実情は知られておらず、「今も病に苦しむ被爆者がいると知り米国人は驚いていた。被爆地からの働きかけの重要性を実感した」と話す。

 全米原爆展の提案者は、原爆資料館などを運営する広島平和文化センター理事長で、米国人のスティーブン・リーパーさん(60)。米大統領選をにらみ、今年末までに首都と全米50州各2都市で開催することを目標に据えた。

 大半の開催地に足を運んでいるリーパー理事長は「期待以上の成果だ」と、反響に手応えを感じている。多くの地域で地元新聞やテレビが原爆展を報じた。展示が終わった原爆写真のパネルが地域の学校や教会で巡回展示されるなど活用されている。

 開催地の市民が、地元の市長に平和市長会議への加盟を要請するケースもあった。ウィスコンシン州では市民が州議会に核兵器廃絶決議案を提出するよう働きかけたという。

 日本での賛同も広がった。原爆展に合わせて、現地の新聞に核兵器廃絶の意見広告を載せるために呼び掛けた募金は900万円以上になり、目標額600万円を大きく上回った。

 ただ課題も少なくない。ユタやバージニア、テキサスなど8州では開催が決まっていない。現地協力者が見つからなかったり、被爆者の派遣要請に応じるのが難しいケースもあるからだ。

 被爆者派遣について市は当初、被爆者派遣を計画していたのは25都市。実際に41都市に派遣できたのは、広島県被団協や在米被爆者の協力があったからだ。これからもすべての要請に応えるには、被爆者の高齢化や予算の制約など難問も多い。

 市は、国内から米国へ被爆証言を届けるテレビ会議システムの導入を進めようと考えている。資料館啓発担当の谷川晃副館長は「成果を今後につなぐためにも、被爆者だけに頼ることなく、被爆の実情を伝え広める手段の検討を急がなければならない」としている。

(2008年9月18日朝刊掲載)

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