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連載・特集

緑地帯 「原爆の図」の旅 岡村幸宣 <7>

 米ニューヨークの中心マンハッタンからブルックリン橋を渡り、再開発の進む港湾地区の一角。古い煉瓦(れんが)壁の窓から、吹き抜けの広い空間に冬の陽光が差し込む。聖堂に飾られた祭壇画のように並ぶ6点の「原爆の図」は、日が沈むと、照明を当てられてぽっかりと闇に浮かび上がった。

 19世紀の旧鉄工所を再利用した多目的施設パイオニア・ワークスは、芸術家のスタジオと科学者の研究室が共存し、インターネットラジオ局や書店も備えた先進的なスペースだ。2015年夏から秋にかけ、ワシントン、ボストンと巡回した米国展の最終会場。若者たちが運営し、週末には有機野菜の販売やパーティーなども行われる開放的な空間での展示は、朗らかで洗練されていた。

 アート系ウェブメディア「ハイパーアレジック」は、「『原爆の図』は歳月を経ても力を失わなかった」と好意的に紹介し、ブルックリンの美術展の年間ベストテン第2位に選出した。地価の高騰するマンハッタンに代わり、ブルックリンは近い将来、現代アートの中心になると期待されている地域だ。そこで開催された数ある現代アート展のなかで、一見古風なスタイルの「原爆の図」は、ニューヨーク屈指の規模を誇るブルックリン美術館の「バスキア展」に次いで高い評価を得たのだった。

 丸木夫妻が初めて米国で「原爆の図」を展示した1970年には、ニューヨーク・タイムズ紙が政治的偏見としか思えない表現で酷評している。それから45年、時代は大きく変化した。(原爆の図丸木美術館学芸員=埼玉県)

(2016年4月1日朝刊掲載)

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