×

社説・コラム

『美術散歩』 深い思考を迫る作風

◎第79回自由美術展 3日まで。広島市中区上幟町、広島県立美術館県民ギャラリー

 明るい色彩に吸い寄せられて近づくと、深い思考を迫られる―。そんな半抽象作品が多い。相互批評に重きを置く「自由美術協会」。戦後70年の昨年秋に東京であった本展からの巡回作と、広島地方グループ出品作の計105点が並ぶ。

 原爆が焼き尽くした人間の悲惨を紅蓮(ぐれん)の炎に描き続ける笹賀捨雄(広島市)は今回、「核兵器廃絶」とストレートな題名を付けた。嘉屋重順子(同)「漂着」は、社会の不穏を映すかのような灰色の画面。それぞれに戦争体験者としての思いがこもる。

 新たに会員になった中元寺俊幸(同)「ままならぬ飛翔(ひしょう)Ⅰ」は、真っ赤な背景から怒りの感情が伝わる。身ぐるみ剝がされた平和の象徴ハトを描くシリーズは、より深化した。田川久美子(同)「あの時」はピンク、西尾裕(同)「現出」は紫を基調に、おのずと生まれた形に心象を託す。

 絵画が中心だが立体も。初入選の藤野成之(同)の2作品「ひとり疎開したあの頃 8才。」=写真手前=と「ちのそこから…」=写真奥=は土やセメントを用い、戦時下の記憶、魂の叫びを表現した。

 広島県北広島町出身の画家靉光の名を冠した靉光賞には、佐藤廣子(京都市)「炉のある風景Ⅱ」が選ばれた。賞の創設50年を記念し、2日午後2時から同館地下講堂で講演会も。「靉光と自由美術」をテーマに会員の醍醐イサムが話す。=敬称略(森田裕美)

(2016年4月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ