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社説・コラム

社説 国際社会と核 廃絶の視点も忘れるな

 核をめぐる懸案を話し合うために米ワシントンに50カ国以上の首脳たちが集まった意味は、やはり小さくない。「核兵器なき世界」を掲げるオバマ大統領の提唱による核安全保障サミットが開幕し、活発な首脳外交が繰り広げられた。

 目下の国際社会にとっての脅威とは、何といっても核実験と弾道ミサイル発射を強行した北朝鮮であり、さらには核の入手をもくろんでいるとも伝えられる過激派組織「イスラム国」(IS)であろう。

 サミットに先立つ日米韓の首脳会談は約2年ぶりであり、北朝鮮をどう押さえ込むかに焦点が絞られたといえよう。その中で日韓は安保上の軍事情報を共有化する協定を結ぶ方向で協議を進めることになった。韓国からすれば中国と一定に距離を置いて、日米同盟により接近する狙いもあろう。

 安倍晋三首相は「核ミサイル能力の進展は地域だけでなく米国の安全に対する直接的な脅威だ」と強調した。北朝鮮の中・長距離弾道ミサイルの射程に入る日韓と、開発途上の長距離ミサイルを警戒する米国とでは、危機感が異なる。中東情勢に関心が向きがちな米国に物申しておく意味もあるようだ。

 オバマ大統領の口から「3カ国の安保協力は北東アジアの平和と安定のために必須」との言葉を引き出したが、これで解決となるはずもない。というのも国連の制裁決議にもかかわらず挑発行動を繰り返し、現実的にはすぐにも核開発を止めるとは考えにくいからだ。むしろ追加の核実験を含むさらなる対抗措置に踏み切る可能性もある。

 首脳間の話し合いだけでは手詰まりなのも確かだろう。

 一方、核安保サミットにおいては各国ともイスラム国への警戒心をあらわにし、核拡散防止を急ぐべきだとの認識では一致していよう。欧州などでテロが相次ぐ中、ベルギーのテロでは原発を狙っていたとも報じられている。核が使われる最悪の事態も頭に入れねばならない。

 医療用などを含む放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」への備えも急がれる。これこそがサミットの本来の狙いである。だからこそ各国の結束が求められる。採択される核安保コミュニケの骨子には「非国家主体による核物質の入手」の阻止がうたわれている。

 日本の原子力政策にも深く関係してくることを忘れてはならない。原発推進によって世界有数の核物質保有国となった。発表された日米の共同声明では、兵器転用できるプルトニウムなどを防護するための秘密情報を共有する方向での交渉開始を盛り込んだ。それも国際社会の警戒心の表れともいえる。

 ただ一連の動きを見て実感するのは民生用のセキュリティーをどれほど強めようとも核保有国が核兵器を持ち続ける以上、人類の脅威は消えないことだ。その視点が見えてこなかったのは被爆地としては残念だ。

 オバマ大統領の退任に伴い、核安保サミットは今回で最後となるようだ。何らかの形で取り組みを続ける必要があり、核兵器廃絶まで深化させてもらいたい。それをリードするのは被爆国である日本の役割である。10、11日に広島市である外相会合でどんなメッセージを発するか、世界が注目している。

(2016年4月2日朝刊掲載)

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