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連載・特集

『生きて』 マツノ書店店主 松村久さん(1933年~) <12> 本屋の明日

デジタル時代 紙に価値

  貸本屋のマツノ読書会時代の営業日記などが本にまとめられ、8月に金沢市の出版社から刊行される
 古本屋兼ミニ出版社となって1974年に貸本屋をやめるとき、東京・高円寺でうちと同じように大人向けの貸本屋をやっていて親交のあった大竹正春さんが、私の付けていた貸出冊数の記録や売り上げ帳、営業日記なんかを欲しいと言ってこられた。捨てるくらいならと思って皆差し上げた。

 その後、大竹さんから図書関係の本を専門に出版している金沢文圃閣(ぶんぽかく)に渡り、このたび「貸本関係資料集成―戦後大衆の読書装置」の補遺編(全8巻)の1~3巻に載ることになった。もう貸本屋はほとんどなくなってしまったから、貴重な資料になったんだろう。ありがたいことです。本になれば、ずっと残るわけだからね。

  「活字が空を飛んでくる時代になった」という。デジタル時代の本の価値とは
 活字業界全体がデジタル化で厳しくなっている。パソコンやスマートフォンで、本がただ同然で読めるからね。うちも復刻出版を始めた当初は1点当たり平均500部は刷っていたけど、いつしか300部に減り、今や200部になっている。

 ちょっと拾い読みするのにデジタルは便利かもしれん。じゃけれども本は読むだけでなく使うもの。きちんととじられている方がすぐに必要なページを開ける。読み比べたり、印を付けたりするのに具合がいい。紙は何百年と保存できるが、デジタルはハードが変われば使えなくなる。デジタル化が進めば進むほど本の価値は上がっていく。その辺に本屋のこれからの保証があると思います。

 もともと文学青年ではないし、歴史が好きなわけでもなかったんよね。だからこそ趣味にのめり込むことなく、常識にとらわれることなく「型破りの本屋」を続けてこれたんじゃろう。これからもお客さんと価値ある本のために、復刻出版を続けていきます。=おわり(この連載は周南支局・高田果歩が担当しました)

(2016年4月2日朝刊掲載)

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