×

社説・コラム

『書評』 郷土の本 原子爆弾テロ概言 核被害隠蔽 怒りあらわ

 広島市出身のフリージャーナリスト森川方達さん(60)=神奈川県鎌倉市=が、原爆文学や被爆者運動などの膨大な資料に当たった大著「原子爆弾テロ概言」を出版した。

 「屍(しかばね)の街」を残した被爆作家大田洋子が1945年8月30日の朝日新聞に発表した「海底のやうな光」を「人類史上初めて書かれた原爆体験記」と位置付ける。その後、占領軍が原爆被害の言論を統制したプレスコードの実態を詳述する。

 「原爆(後傷害)隠しに始まる戦後史」「こころなき日米合作<核の傘>安全保障神話」…。章立てからも、広島・長崎の焦土から福島の原発事故へ至る道を刻む、核被害の隠蔽(いんぺい)への著者の怒りが伝わる。

 広島ロケが行われた59年公開の日仏合作映画「ヒロシマ・モナムール」(邦題・二十四時間の情事)にまつわる逸話も紹介。原水爆禁止を訴えるデモ行進の場面にエキストラで出演した母の姿をDVDの映像で確認した驚きをつづった。558ページ、5724円。現代書館。(石川昌義)

(2016年4月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ