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連載・特集

ヒロシマの声 外相会合を前に <3> 広島大特任教授 マーヒル・エルシリビーニーさん=東広島市

中東の平和築く一歩に

 中東地域の多くの市民は、仕事をして、家庭を持ち、静かに暮らしたいと思っている。紛争に巻き込まれることなく。問題があれば話し合いで解決したいし、無差別に人を殺す核兵器はもちろんなくさないといけない。具体的にどうすれば中東に平和が訪れるのかを、みんな考えている。だが、それが難しい。

テロに使用 懸念

 ≪事実上の核兵器保有国、イスラエルがある中東問題は国際社会の長年の課題だ。5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は1995年、条約の無期限延長を決めた時に中東の非核化を決議。前進はなく、2015年の再検討会議は最終的に中東問題を巡る米国とアラブ諸国の対立で決裂した形になった。≫

 「アラブの春」が始まった時、核兵器が使われるのではないか、と心配した。どの国が持っているのか分からないから。今は国の力が弱まり、テロリストの手に核兵器が渡ることが非常に大きな問題になった。敵だと思う人間をできるだけたくさん殺そうとするから核兵器を使いかねない。

 欧州が中東からの難民を受け入れなくなると、市民は逃げ場がない。ならば中東の平和が世界の平和につながると思って、中東問題、難民問題を世界が深刻に受け止めてほしい。

核の恐怖 知って

 ≪エジプト出身で87~92年に広島大に留学。専門は日本語学で、被爆後の広島を描いた漫画「はだしのゲン」を自らアラビア語に翻訳し、15年1月に出版した。残る2~10巻も翻訳を終えており、順次出すつもりだ。≫

 自分の能力を生かして中東の平和に貢献できる手段が「ゲン」の翻訳、出版だった。広島に留学するまで原爆が落とされた事実は知っていたが、「大きな爆弾」くらいの認識で具体的な被害を知らなかった。今もアラブの人は同じだと思う。だから、戦争も核兵器もいけないと思ってもらえるよう「ゲン」を通じて知識を提供したかった。

 中東だけでは兵器を造ることはできない。兵器や技術を売る国があることが問題なのだと思う。そういう意味で、中東の力だけでは平和は築けない。主要国のリーダーは、広島に来て核兵器の恐ろしさに触れるべきだ。自ら持ったり、技術を売ったりしないのはもちろん、他国が使わないようにすることも真剣に考えるだろう。原爆の日の平和記念式典は、大使ではなく、政治をつかさどる首脳が出てこそ意味があると思う。(岡田浩平)

Maher・Elsherbini
 1959年、エジプト生まれ。カイロ大文学部日本語日本文学科卒業。92年に広島大大学院文学研究科で博士号を取得した。カイロ大で教授を務める傍ら、昨年6月から広島大特任教授。夏目漱石の「坊っちゃん」「こころ」などをアラビア語に翻訳し、出版している。

(2016年4月4日朝刊掲載)

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