×

連載・特集

ヒロシマの声 外相会合を前に <5> 元原爆資料館長・原田浩さん=広島市安佐南区

被爆実態 つぶさに見て

 「短時間の訪問でどれだけ伝わるのか」「現状の核政策を肯定する場になるだけでは」…。外相会合が近づくにつれ、懸念が大きくなっている。外相たちは被爆の実態をきちんと知り、被爆者の「二度と繰り返してはならない」との思いを受け止め、政治に反映する責務がある。広島訪問を形だけにしてはならない。

遺構見学提案を

 ≪6歳の時、爆心地から2キロの広島駅(現広島市南区)で被爆。1993~97年に原爆資料館(中区)の館長を務め、国内外の要人に被害を説明した。≫

 ほとんどの建物が全壊全焼した、爆心地から2キロ以内の非人道的な惨状に触れることが重要だ。人間が予期せぬまま焼かれ、黒焦げになった。生き残った者は生死が分からない、倒れている人を踏んで逃げた。その場にいた被爆者にしか語れない話に外相たちは耳を傾けるべきだ。

 平和記念公園(中区)で訪れるべき場所は、原爆慰霊碑だけではない。約7万人の遺骨を納めた原爆供養塔や、原爆資料館本館敷地で進む発掘調査の現場もだ。調査で出土した街並みの遺構は市民の営みが奪われた証しなのに、市はフェンスやシートで見えないようにした。実態を伝えるため、市側から外務省へ「これは見るべきだ」と提案できないのだろうか。

8・6訪問して

   ≪館長在任中の95年、米国のスミソニアン航空宇宙博物館で被爆資料が展示される計画に対し、退役軍人らが猛反発。原爆投下を正当化する根強い考えに直面した。≫


 米国は被爆の実態と被爆者の訴えを受け止め、原爆の投下はどんな理由でも許されるものではなかったと認めるべきだ。「自国の兵士を守るため」「戦争を終わらせるため」と投下を正当化したままでは、将来にわたって核兵器を持ち、同じ理由で使いかねない。

 片や日本政府は、96年に国際司法裁判所(ICJ)が核兵器の使用・威嚇は「一般的に国際法違反」との勧告的意見を出した後も、米国の投下の責任、違法性を正面から追及しないまま安全保障を「核の傘」に頼る。岸田文雄外相は、米政権中枢のケリー国務長官らと平和記念公園を訪れる今こそ、はっきり言ってほしい。「核兵器の使用、保有はどんな理由でも決して許されず、廃絶されなければならない」と。

 各国外相が帰国後、核兵器廃絶へ本当に行動するかどうかを見たい。そして次は8月6日の広島訪問を求めたい。(水川恭輔)=おわり

はらだ・ひろし
 1939年生まれ。早稲田大を卒業後、63年に広島市職員。原爆資料館長在任中、被爆50年事業や、国際司法裁判所(ICJ)での核兵器の使用に関する審理に際し、平岡敬市長(当時)の陳述準備に携わった。市文化財団理事長などを歴任。被爆体験の証言を続けている。

(2016年4月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ