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連載・特集

広島外相会合 4月10・11日 世界の課題どう解決

 初の被爆地開催となる外相会合。国際社会で手詰まり感が漂う核軍縮・不拡散の分野で前向きなメッセージを出せるのか、議長国日本の手腕が問われる。5月にある主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の事前交渉の場として、海洋進出を図る中国や、テロ対策など、多岐にわたる外交課題が取り上げられる見通しだ。主な論点をまとめた。

核兵器廃絶 議長国日本 問われる手腕

 核兵器廃絶に向けた議論を深め、国際社会の歩みを進める具体的な道筋をつけられるか―。外相会合の焦点の一つだ。しかし、核兵器の非人道性を前面に法的禁止を目指す非保有国と、段階的削減を主張する保有国の対立は鋭さを増している。米国の「核の傘」の下にいる被爆国日本の主導で、明確な成果を出せるかは未知数だ。

 外務省は会合を前に、近年の核軍縮の停滞ぶりを強調している。昨年5月、5年に1度、約190カ国が核軍縮の方策を話し合う核拡散防止条約(NPT)再検討会議は最終文書を採択できず決裂。そこに至るまでには法的禁止の道を探る非保有国に対し、保有国が猛反発した。

 国連総会の決議を受け法的禁止も含めて話し合う作業部会が設けられたが、ことし2月の初会合を保有国はボイコット。同省幹部は「保有国と非保有国の分裂が進み、軍縮は明らかに後退している」とする。

 作業部会に参加した日本は、この現状を理由に核兵器禁止条約を「時期尚早」と指摘。保有国の言う段階的削減を唱えた。平岡敬・元広島市長(88)は「核抑止力に依存する考え方を根本から否定しているのがヒロシマの平和思想だ。外相会合が国内向けの平和のポーズになる恐れがあるだけに、広島市民は内容を厳しい目で見る必要がある」と指摘する。

 核不拡散の分野では昨年7月、イランが欧米など6カ国と核開発制限に合意し「唯一の前進」(同省幹部)があった。ことしに入ると北朝鮮が1月に4度目の核実験を強行し、弾道ミサイルの発射も繰り返している。国連安全保障理事会は航空機・ロケット燃料の原則輸出禁止などを軸にした制裁を決議したが、挑発行為を止められてはいない。

 岸田文雄外相が会合で表明する意向を示している「広島宣言」や成果文書で、どこまで具体策に踏み込めるか。議長国日本の非核外交の真価が問われる。保有国の米、英国、フランスは現役外相の広島訪問自体が初めて。原爆被害の実態に触れ、どんな言葉を発するかも注目される。

テロ対策 非難声明で結束力を確認

 議長国日本が最も重視する議題がテロ対策だ。3月22日に、ベルギーの首都ブリュッセルで同時テロが起きたばかり。会合では各国の結束を確認し、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)を念頭に、テロリストを厳しく非難する声明を出すとみられる。

 IS関連のテロは世界各地に拡散している。昨年11月、フランス・パリの劇場や飲食店などで起きた銃の乱射、爆発でもISが犯行声明を発表した。欧州の中心都市にとどまらず、北アフリカや中東でもテロが続発。同10月にはロシアの旅客機がエジプト・シナイ半島で墜落し、プーチン大統領はISの犯行と事実上、断定した。

 有志国連合はシリアやイラクにあるISの拠点の空爆を強化しているが、新たなテロを誘発しかねない。一方、欧州にはシリアなどから大量の難民が押し寄せている。難民・移民は排外的な視線にさらされ、その境遇が次なるテロの口実にされる危険性もある。悪循環をいかに断ち切るかが、国際社会の喫緊の課題となっている。

中国を念頭 海洋上での法の支配訴え

 海洋での権益拡大に向けて主張を強める中国への対応について、日本は外相会合で参加国の結束をアピールし、海洋上での「法の支配」の重要性をあらためて打ち出したい考えだ。

 中国は南シナ海に人工島を造り、滑走路を建設。接近した戦闘機や艦船に撃ち込む地対空ミサイルや地対艦ミサイル、レーダーを配備する動きを見せ、日米や東南アジア諸国との間で緊張を高めている。

 日中間に限れば、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海での対立がくすぶる。近年は中国がガス田施設を増やすなど一帯での資源開発を活発化しており、日本が反発している。2月末の日中外務次官級協議では、南シナ海問題を伊勢志摩サミットの議題から取り下げるよう中国が要請し、日本は拒否したとされている。

<国際情勢と核兵器を巡る主な歴史>

1945年 8月 米国が広島、長崎に原爆を投下
  49年 8月 ソ連が初の核実験
  52年10月 英国が初の核実験
  54年 3月 米国のビキニ環礁での核実験で第五福竜丸が被曝(ひばく)
  60年 2月 フランスが初の核実験
  62年10月 キューバ危機
  63年 8月 部分的核実験禁止条約(PTBT)に米ソ英が調印し大気          圏内核実験を停止
  64年10月 中国が初の核実験
  68年 7月 国連総会で核拡散防止条約(NPT)調印
  70年 3月 NPT発効
  75年11月 先進国首脳会議(サミット)をフランスで初開催
  79年 6月 日本で初の東京サミット。石油の消費・輸入上限の目標合意
  86年 5月 2回目の東京サミット。インフレなき経済成長が主なテーマ
  93年 7月 3回目の東京サミット。多角的貿易交渉の促進が主なテーマ
  95年 5月 NPTの無期限延長を再検討会議で決定
  96年 7月 国際司法裁判所(ICJ)が、核兵器の使用・威嚇は「一般          的に国際法違反」との勧告的意見
      9月 包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連総会で採択。未発          効
  98年 5月 インドが地下核実験
  99年 5月 インド、パキスタンがカシミールで軍事衝突。パキスタンが          核攻撃の準備
2000年 5月 NPT再検討会議で最終文書を全会一致で採択。「核兵器廃          絶への明確な約束」をうたう
      7月 沖縄県名護市で「九州・沖縄サミット」。感染症、重債務貧          困国問題が主なテーマ
  01年 9月 米中枢同時テロ
  03年 1月 北朝鮮がNPT脱退を宣言
  06年10月 北朝鮮が初の核実験実施を発表
  08年 7月 「北海道・洞爺湖サミット」。温室効果ガス削減が主なテー          マ
      9月 広島市で主要国下院議長会議(議長サミット)。米国のペロ          シ下院議長が平和記念公園訪問
  09年 4月 オバマ米大統領がチェコ・プラハで「核兵器なき世界」実現          に向けた演説
  10年 5月 NPT再検討会議で、核軍縮を含む64項目の行動計画を柱          とする最終文書を全会一致で採択。核兵器の非人道性や核兵          器禁止条約にも言及
  13年 3月 ノルウェー・オスロで政府主催の第1回「核兵器の非人道性          に関する国際会議」。以後2回開催
      6月 オバマ大統領がドイツ・ベルリンで、配備済み戦略核弾頭を          千発水準に減らす用意があるなどと演説
  14年 4月 広島市で非核兵器保有12カ国による軍縮・不拡散イニシア          チブ(NPDI)の外相会合
      6月 ロシアのウクライナへの軍事介入を受け、同国でのサミット          中止。ロシアの参加資格停止をベルギーでの臨時サミットで          決定
  15年 5月 NPT再検討会議が決裂
      7月 欧米6カ国とイランが、イラン核問題の外交解決へ向け最終          合意
  16年 1月 北朝鮮が4回目の核実験実施を発表
      2月 核軍縮に関する国連作業部会が初会合

この特集は、田中美千子、水川恭輔、栾暁雨が担当しました。

(2016年4月7日別刷掲載)

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