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連載・特集

広島外相会合 4月10・11日 被爆地に集う 平和を誓う

 被爆地での初の外相会合に、各国の外相らはどんな思いで臨むのか。書面も含めたインタビューやこれまでの発言から、各外相の「核兵器なき世界」や世界平和の実現に向けたスタンスを紹介する。

軍縮・不拡散の再起動訴える 岸田外相に聞く

 平和記念公園(広島市中区)がある衆院広島1区選出で、外相会合の議長役を務める岸田文雄外相(58)に開催意義や議論の行方を聞いた。

  ―初の被爆地開催です。意義をどう考えますか。
 広島は平和と希望の象徴だ。政治指導者の訪問は、核兵器のない世界へ前向きに取り組もうという国際的な機運を盛り上げ、結果につなげるために意味がある。外相会合では核軍縮の議論を深め、力強いメッセージを発信したい。

  ―核軍縮は停滞が続いています。会合で何らかの成果を上げられますか。
 昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議や国連総会をみても、核兵器保有国と非保有国の対立がかなり深刻になり、「核兵器なき世界」への取り組みがしぼんでいると感じる。北朝鮮による核実験や弾道ミサイル発射も、NPT体制への重大な挑戦だ。

 この状況に危機感を持とう、外相会合を機に軍縮・不拡散の取り組みを再起動しよう、と訴えたい。広島宣言という独立した文書を出し、簡潔で力強い明確なメッセージを届けたい。核保有国と非保有国の双方の主要国が集まる枠組みから発信できれば、今後の国際的な議論に影響を与えられる、と期待している。

  ―他にどんなテーマを議論しますか。
 重要な課題の一つがテロ対策だ。水際対策や警備強化も必要だが、テロの背景を考えれば、過激主義に走らない安定した社会をつくらないと。各国が強みを生かし、補完しながら効果を上げたい。議長国は取りまとめも求められる。日本の強みとしては人道的支援や開発協力を訴えたい。難民、中東、ウクライナ問題なども各国の大きな関心事だ。

 アジアでの開催は8年ぶり。地域課題も話し合う。一連の挑発行動で国際社会の脅威となっている北朝鮮へ、しっかりしたメッセージを発しないと。海上での「法の支配」も議題になるだろう。特定の国を取り上げるかどうか決まっていないが、国際法に基づき平和的に物事を解決する重要性については、各国も理解してくれるのではないか。

  ―市民へのメッセージはありますか。
 外務省は年千人を超える若者や研究者たちを広島に招待する構想を発表した。被爆地訪問はそれほどに重要だ。外相会合に関心を持ち、その意義に思いを巡らせ、協力してほしい。

【米国】

■ジョン・ケリー国務長官(72)

 「核兵器はいずれ、全廃されなければならない」。昨年4月、米ニューヨークの国連本部でのNPT再検討会議で、こう演説している。大学卒業直前に米海軍へ入り、訓練先の学校で教わったとして、核兵器の破壊力や放射線がもたらす健康被害にも言及。ただ、「核兵器のない世界を実現するには忍耐や協力、粘り強さが必要だ」と、道のりの遠さも指摘した。

 2004年の大統領選に民主党候補として臨み、現職だった共和党のジョージ・ブッシュ氏と激戦を演じ、敗れた。クリントン氏の後任として13年2月に国務長官に就任。「核兵器なき世界」を掲げるオバマ大統領を支え、15年7月のイラン核問題の外交解決に向けた最終合意にも取り組んだ実績がある。

 原爆を投下した米国の現職国務長官が広島を訪れるのは初めてとなる。

【カナダ】

■ステファン・ディオン外相

 「核兵器の拡散を防ぎ、現存する核兵器の貯蔵量を減らし、最終的には廃絶するという段階的なアプローチが、地球上の核兵器廃絶を成功させる最善の道」と信じる。昨年の国連総会の決議を受け、ことし2月に初会合があった作業部会にカナダは参加。「核兵器なき世界を実現し、維持するために結ばれるべき効果的な法的措置と規範を実質的に取り扱うため」と説明した。

 日本が主導し核兵器を持たない12カ国でつくる軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)のメンバーでもある。「主要国の中でも、カナダと日本は多くの問題で方向性が似ている」とし、日本が議長国を務める外相会合でも幅広い分野での協力に期待を寄せる。

 広島訪問は初めて。自然や文化に加え、お好み焼きなどにも関心を示し、訪問を心待ちにする。

【欧州連合】(EU)

■フェデリカ・モゲリーニ外交安全保障上級代表(42)

 「被爆者の証言は核の誘惑を拒絶する最強の警告であり、彼らの物語を後世に残すのは重要だ」。かつての被爆者との対面が一生忘れられない経験という。初の広島で、参加外相とともに原爆慰霊碑を訪れるのを待ち望む。

 「核不拡散と軍縮は生涯にわたって身をささげる、私たちの世代に与えられた最重要課題の一つ。私たちはようやく核兵器は安全を向上させず、実際にはむしろ劇的に弱体化させると気付き始めた」との認識を持つ。NPT体制の強化、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効などを課題に挙げ「『核兵器なき世界』は勇気ある指導者と市民レベルの取り組みなしには実現できない」。

 EU本部があるベルギー・ブリュッセルでは3月に同時テロが発生。世界平和へ、主要国メンバーの積極的な関与に期待している。

【ドイツ】

■フランクワルター・シュタインマイヤー外相(60)

 2014年4月に広島市であったNPDIの外相会合に出席した。「原爆資料館(中区)と原爆慰霊碑を訪れ、被爆者と対話し、深く心を揺さぶられた。広島は『核兵器なき世界』という目標に向け力強く取り組むよう私たちを戒めている」と振り返る。

 ドイツは「核兵器なき世界」という目標の追求を「自らの責務」と感じているとしつつ、その道のりが遠いとも指摘。「『核兵器なき世界』の実現は世代を超えて取り組まねばならない課題だ。大小さまざまな前進を積み重ねていかなければならない。この道を進み続ける以外に選択肢はない」。7カ国が集う外相会合の場について「意見・立場の幅は大変広いからこそ、説得力ある現実的なアプローチによる問題解決を図れる。外交の力、対話の力を信じなければ実際的なアプローチは示せない」という。(写真は(C)Photothek/Thomas Köhler)

【英国】

■フィリップ・ハモンド外相(60)

 「直面する重大課題にどう共に立ち向かうか話し合う貴重な機会。第2次世界大戦後、市民がいかに見事に立ち上がり、街を再建したかを直接知ることもできる」。初めて訪れる広島での議論を心待ちにする。

 外相会合では、テロ対策や難民問題、ウクライナ情勢、東アジアの安全保障など幅広い議題を想定。「解決するには、目の前にある問題を正しく理解し、仲間と十分に意思疎通し、行動に向けた決意を固める必要がある」と、議長国日本の主導力に期待を寄せる。

 核兵器保有国の一つだが、NPTの最終目標が「核兵器なき世界」にある、との認識を強調。「実現するには、核兵器の段階的な削減に向けた多国間交渉こそが最良の道。保有国が核兵器を手放せると思えるような安全で安定した世界の実現へ、具体策を講じていきたい」

【フランス】

■ジャンマルク・エロー外相(66)

 「広島は戦争の悲劇の象徴。手を携えて平和を守る重要性を国際社会へ喚起する。外相間の協議にインスピレーションを与えてくれるはずだ」。初の広島訪問を前に意欲をみせる。

 自国も核兵器を持つが、「『核兵器のない世界』の条件づくりに力を注いでいる。漸進かつ無理のないやり方で、国際的な安全と安定を促している」。兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の早期交渉開始に向けた努力などを例示。2大保有国の米ロの核軍縮交渉の進展にも期待を寄せる。

 昨年11月にパリ同時多発テロが起き、テロ対策を重要課題に掲げる。「地域を不安定にする紛争など、根本原因に取り組まないといけない」と、テロ資金供与の防止、警察や税関の国際協力強化などの必要性を指摘。北朝鮮への制裁強化や気候変動問題も議題になるとみる。(写真は(C)Bruno Chapiron/MAEDI)

【イタリア】

■パオロ・ジェンティローニ外相(61)

 先月19日、イタリアを訪れた岸田外相と会談。軍縮・不拡散での協力を確認し、広島での外相会合で「核兵器なき世界」の実現に向けたメッセージを出すのは有意義だとの考えで一致した。

 来年はイタリアが主要国首脳会議(サミット)の議長国を務めるとあって連携を進めたい考えだ。会談では、テロの未然防止のための緊密な連携と、各国の強みを生かした支援の重要性も確認した。ウクライナとロシアの情勢に関して、主要国の連携を継続しつつ、中東をはじめとする諸問題の解決にロシアの建設的な関与を得るため、対話を継続する必要性でも考えが共通している。

 イタリアは北大西洋条約機構(NATO)に加盟。米国から「核の傘」の提供を受ける。

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開催地から

実相知る意義大きい 松井一実広島市長

 いよいよ外相会合が広島で開催されます。119万人の市民を代表して心から歓迎します。

 この会合では、核兵器保有国を含む主要国の外相が、「平和と希望の象徴」として世界的求心力を持つ広島に戦後70年余の歴史の中で初めて集い、核軍縮・不拡散やテロ対策、難民問題などさまざまな政治的問題について対話することになります。

 その意義は極めて大きい。まず、各国外相が直接被爆の実相に触れ、平和への思いを共有してもらえる。同時に、被爆直後の状況と70年後の平和を象徴する今の状況を比較して平和の尊さを実感し、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けた揺るぎない決意を固める大変貴重な機会になると考えています。

 核兵器廃絶に向けた取り組みが一歩でも二歩でも前に進むよう、ここ被爆地広島から世界へ、その決意の発信を切に希望します。

首脳訪問働き掛けを 湯崎英彦広島県知事

 外相会合は、主要国の外相、特に核兵器保有国の外相が被爆の実相に触れ、核兵器の非人道性について認識を深め、核兵器のない平和な世界への決意を固めていただく絶好の機会だ。

 広島から、政治指導者の被爆地訪問を働き掛けるのは、核兵器が、人間の死や建造物の物理的な破壊を超えて、人々が暮らしていたコミュニティーやそこに住んでいた家族の記憶などを丸ごと消し去ってしまう兵器であり、永遠に廃絶されなければならないからだ。

 岸田外相には、核軍縮・不拡散の促進に向けて、各国に強く働き掛けていただいている。各国外相に、核兵器のない平和な国際社会の実現に向けて平和を願う気持ちを、ここ広島から発信していただくことを強くお願いし、首脳の被爆地訪問を働き掛けていきたい。

1945年10月 被爆2ヵ月後のヒロシマ

 旧文部省の原爆災害調査団に同行して入った東京の写真家林重男さん(1918~2002年)が1945年10月、旧広島商工会議所屋上から撮影。中央が相生橋。中国新聞整理部画像チームがオリジナル・プリント15枚をつなぎ制作。

この特集は、田中美千子、水川恭輔、栾暁雨が担当しました。

(2016年4月7日別刷掲載)

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